第68話 英雄になるよ
「王都でスタンピードを止めるのじゃ」
爺さんは南部の人間だもんな。初めから、そう言えってんだ。
俺はエレナを手に入れるためならば、何だってするつもり。逃げ出すと思っていたのなら、俺を過小評価している。
俺はそよ風でも壊れる剣で冒険にでた人間だぞ? 死を覚悟するのは今に始まったことじゃねぇよ。
「上等だよ。ソロで戦うわけじゃないのなら、俺は充分だ。いつだって死ぬ覚悟をして戦ってきた」
「勇ましいの。それでこそ我が息子よ。辺境伯の跡取りに相応しいわい。リオの命を預けてくれい」
俺には過ぎた待遇を用意してくれるんだ。俺はガラムの命令ならば、何だってやるつもり。恩を返していかなきゃ男が廃るってもんだぜ。
「詳細は追って伝えるのじゃ。今日はこの部屋に泊まっていけ。王家の許可は取っておるからの」
もう遅い時間だ。今からスミスに戻ったとして二人は寝ているだろうし、迷惑をかけるだけだもんな。
「それは助かる。あと聞きたいのだけど、俺は鍛冶職人を続けたい。エレナが鍛冶工房を経営してるんだ。俺は彼女の手助けがしたいんだよ」
「ああ、一応は調べたのじゃ。酔狂なオナゴを好きになったの? ワシは構わんぞ。まだ隠居するつもりもないからな」
一目惚れなんだから仕方ねぇよ。酔狂な女だと知る前に好きになってしまったんだって。
「それに彼女は剣を扱う英雄が好きなんだ。俺は打撃武器ならスキル持ちだけど、剣術を習ってみたい」
要求ばかりで申し訳ないが、エレナが納得して嫁入りしてくれるには必要不可欠な要素。正式に辺境伯の一員となる前に伝えておかねばならない。
「それは任せておけ。ウェイル辺境伯は武門じゃぞ? ワシは魔法士をしておるが、元々は近衛騎士の家系なのじゃ」
おお、それは朗報だ。
剣術がなければ、エレナが振り向いてくれない。無理矢理に嫁としたところで、俺はそっぽを向かれてしまうだろう。
「なら障害はねぇよ。俺は武門ウェイル辺境伯の一員となる」
「良い男じゃ。決意を固めた男の顔をしておるわい」
クックと笑うガルムに俺は口先を尖らせていた。
何だか馬鹿にされたように感じる。俺は決意を言葉にしただけだというのに。
「リオよ。お前さんは女神に愛されておるのじゃろう。ワシらの出会いだけでなく、嬢ちゃんとの出会いもまた女神様の計らいかもしれぬ。お主が覇道を突き進めるようにと用意されたご褒美じゃろうて」
本当かよ? サラマンダーも話してたけど、俺が女神様に愛されているなんて。
俄に信じられないけれど、確かに王都へと向かう前からは考えられない状況にあった。
「そうかもな……」
俺は否定しなかった。
もしも、兄上が水商売の女性に入れ込まなければ。
その世界線の俺はきっと男爵家の五男坊として所領にて雑用をしていたことだろう。適当な女と結婚し、慎ましく生きていたはずだ。
「俺は女神様の期待にも応えねばならんようだな」
「その通りじゃ。女神エルシリア様のご意向に沿うよう努力するのじゃぞ?」
分かってるよ。現状は俺一人の力で得られたものなどないって分かるんだ。
周囲の助けがあってこそ。それさえも神の領域であるのなら、女神エルシリア様を崇拝しまくらなきゃいけないっての。
「任せろ。俺は英雄になるって決めたんだ」
神の意向であるのなら俺は従うだけ。好きな人の嗜好が神による誘導であるのなら、それでも構わない。
俺の気持ちでさえ神が関与していたとしても、俺はそれを信じる。
現状こそが俺の全てだ。
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