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第65話 本気なのか?

「リオ、妾と婚約するのじゃ!」


 唖然と息を呑む。

 いやいやいや、どうしてそうなる!?


 もし仮にそういった成り上がりの物語があったとして、相手は男爵家の五男坊ではない。最低でも伯爵家のご長男くらいだろう。


「無理ですって! 俺は男爵家の出身なんですよ? それに家督を継ぐこともできない五男坊なんですから!」


「そんなものは知らぬ! どうにかせよ!」


 どうとでもなるのなら、俺は上位貴族を名乗ってるよ。それでエレナに堂々と交際を申し込んでいただろうさ。


「できないものはできませんって! 俺を困らせないでください!」


 俺たちを迎えた拍手はすっかりと消え失せて、ざわめきだけが会場を支配している。


 早く逃げ出したい。一歩、二歩と後ずさりするエレナの手を取りたかった。


「妾は気に入ったのじゃ。格好いい男。強さは分からんが、ガラム爺の推薦じゃ。きっと弱くはないじゃろう。加えてダンスは妾の指導者よりもずっと上手い」


 どれだけ褒められようと、俺は認められない。

 侯爵令嬢のリズさんでも畏れ多いというのに、姫殿下の相手が務まるはずがないって。


 しかしながら、ソフィア姫殿下は続ける。決定的とも言える台詞を。


「其方に惚れたのじゃ」


 絶句するしかねぇよ。

 どうして好きな人以外には好意を示されてしまうのだろうな。


 俺が幸運だとサラマンダーはいうけれど、ぶっちゃけ不幸の火種が投下されているとしか思えん。


「待ってください! 俺にはその……決まった人が……」


「むぅ? 相手がおるのに妾の手を取ったのか?」


 しくったかも。

 ダンスをする前に言うべき話だったのか。あまりこういった情報に詳しくないから、俺は彼女の手を取ってしまったんだ。


「すみません。無教養な男爵家の人間ですので、ご迷惑をおかけしました」


「よい! 妾は別に狭量ではない。その者は妾とするが良いぞ!」


 えええ……。

 そんな返しがあるとか聞いてねぇよ。男爵家の五男坊は正妻すら難しいのに、妾を取っても構わないっての?


「それで誰なのじゃ? 妾は知っておきたい。旦那様と契りを交わしたものが誰であるのかを……」


 横目で見ると、エレナは壊れた風見鶏のように顔を左右に振っているが、俺は姫殿下の命に従うだけ。エレナの名を口にしなければ、絶対に後悔するはずだと。


「メイフィールド伯爵家のエレナです」


 俺の返答に、会場は一層ざわめいていた。


 男爵家に続いて飛び出したのが伯爵家では無理もないだろう。エレナはこの場で一番の格下だと話していたのだし。


「ほう、そこの娘か? 近うよれ!」


 この災禍はエレナをも巻き込んでしまう。


 姫殿下に指示されてはエレナも断れない。恐る恐る彼女はソフィア姫殿下へと近付いていく。


「ほう、婿殿は見る目があるな? とても良い女じゃ。妾は気に入ったぞ!」


「あああ、有り難き幸せ!」


 カチンコチンとなるエレナの姿は新鮮だったけど、どうやらエレナもまた断る文句を持っていない感じ。


 恐らく俺と同じだ。伯爵家に迷惑がかかる行動をエレナは良しとしないのだろうな。


「ならば、式典の準備を始めるのじゃ!」


 トントン拍子でことが進む。

 誰かこの暴走馬を止めてくれよ。王様とか公爵様とかさ。


「姫、無茶ばかり言いなさるな?」


 困惑するだけの俺に、ようやくと助け船を出す者が現れている。

 姫殿下を制したのは俺もよく知るガラムであった。


「姫、感心しませんぞ? こういったことは周囲の確認も必要です」


「ガラム爺、どこにおったのじゃ!?」


 やれやれだぜ。

 ガラムなら悪いようにはしないだろう。傍若無人な姫君の暴走を止めてくれるはずだ。


「最初からおりましたぞ。ダンスまでは良いとして、今のはいただけませんな」


「どうしてじゃ? 妾は自分で婚約者を決めたい。父上にもそう話しておる」


「ご自分で決められるにしても、確認を取ってからにすべき。ワシはリオの保護者みたいなものですが、王家に推薦できる男にはまだなっておりませぬ」


 その通りだぜ。俺は別にそこまで成り上がるつもりはないんだ。伯爵令嬢に並び立つくらいになれば良いだけ。


「なら、どれだけ待てばいい? 妾はリオと結婚したいのじゃ」


「どうしてもと仰るなら、一年くらいはお待ちください。今よりも良い男に仕上がっていることでしょう」


 おい、待て。勝手に進めるんじゃない。エレナは承諾した感じだったけど、俺は断ったんだぞ?


「ガラム、待ってくれ! 俺は成り上がりたいわけじゃないんだ……」


「リオよ、お前さんは王国に必要な人材じゃ。その力に相応しい地位も必要となる。強さだけでは駄目なのじゃよ。権力を含めた力がお主には必要じゃ」


「いや、俺はそんなの望んでいない!」


 俺にできること。過信するわけじゃないし、俺はエレナと生きていけたらそれで良かった。


「本当にそうかの? 力がなくては何もできん。お主が望んでいることを成すにも力がいる。貴族界はお主が考えているよりも、ずっと複雑なのじゃ」


「だけど、俺が権力を得てしまえば、王女殿下の婿になるだろう!?」


「リオ、お主は少しくらい考えるのじゃ。力がないからこそ、良いように扱われてしまう。撥ね除ける強さ。欲しいものを選ぶ権利があるのは強者だけなのじゃ」


 俺は言葉をなくしていた。


 確かにその通りだ。エレナは姫殿下の要請に首を振れず、感謝を口にするしかできなかった。たとえ彼女が望んでいなかったとしても。


「じゃあ、俺はどうすれば権力を得られる? 欲しいものを手に入れる権利はどうやれば手に入るんだよ!?」


 現状は男爵家の五男坊でしかない。


 今のままではエレナでさえ高嶺の花。エレナ自身の気持ちはともかく、堂々と婚姻を申し込むなんて難しいだろう。


「うむ、ワシが手を貸してやる。ただし、それより先はお主の頑張り次第じゃ。権力を得るには圧倒的な功績が必要となる。たとえば国を救うだとか、発展に寄与するだとか……」


 まあ、それはそうだろうな。

 一代貴族でも任命されるには国家の危機を救ったり、途轍もない発明をするとか功績が必要だった。


「だとしたら、俺はどうしたらいい? 権力が欲しいんだ」


 エレナを手に入れるには権力が必要という。ならば俺は権力が欲しい。欲しいものを手に入れる資格が欲しかった。


「近い内に良い話がある。リオはワシに手を貸せばよい。それだけで名声は手に入るじゃろう。何しろ、きな臭い話題に事欠かんからの。お主が成り上がる下地は充分に存在しておるぞ」


 マジか。

 ぶっちゃけ国のこととかどうでも良かったんだけど、それに俺が関与することで人生における重大な目標が遂げられる。だったら、俺は国のために働こう。


「まあ、それにも権力が必要だったりするのじゃが……」


「おい、いい加減なことを言うな。俺はもうやる気なんだぞ? 絶対に成り上がってやるんだ!」


「わはは、良いの。まあでも、そこは心配するな……」


 声を荒らげる俺をガラムは笑っている。

 加えて、皆が驚く話を続けるのだった。


「リオは今日からワシの養子となれ」

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