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第63話 ダンスマスター

「皆の者、妾は格好いい男を所望しておる!」


 えっと、何だそれ?

 まずはご足労いただいた感謝とかを述べるものじゃないのか?


 困惑する参加者を余所に、ソフィア姫殿下は続けるのだった。


「強くて格好いい男じゃ! そんな男と妾は婚約したい! こぞって名乗りを挙げるがよいぞ!」


 まばらな拍手が返されている。まあ、そういう反応になるだろうな。

 お淑やかな姫殿下を想像していたものだから、突飛すぎる発言には戸惑うばかりだ。


「なんだアレは……?」


「ま、まあ姫殿下は少しばかり変わっておられるのよ」


 擁護するようなエレナだが、俺には少しだとか思えねぇよ。根本から大々的に間違っていないか?


 姫殿下の挨拶があったあと、楽団が再び演奏を始めた。


 どうやらダンスタイムのよう。気を取り直す感じのアップテンポな曲が流されていたんだ。すると、直ぐさま男性たちは姫殿下に群がっていく。


 いや、逞しいな。お家事情もあるのだろうけど、今の話を聞いたあとで手を挙げられるなんて上位貴族の胆力には驚愕するしかない。


「上位貴族ってすげぇ……」


「そりゃそうよ。誰でも良いっていう感じだったし、姫殿下のお相手に選ばれたのなら将来は安泰だもの」


 まあ、そうか。性格さえ我慢したのなら、見返りは充分ってことなんだな。


「あちこちで、人気になってる人がいるな」


 よく見ると、ソフィア姫殿下だけでなく、幾つか人集りができている。きっと、それらも将来有望な貴族なのだろうな。


「弟のフェリクス王子殿下や公爵家のご子息たちでしょうね。最初に手を取られるってのは誉れだし、脈があると考えても構わないもの」


 そういう意味合いがあるのか。

 だからこそ群がる。最初の相手として選ばれるために。


「さ、私たちは踊りましょ? どんどん行くわよ?」


「エレナは俺で良いのか? 待ってたら誘いがあるかもしれないけど?」


「馬鹿ねぇ? 伯爵令嬢なんか、一番最後よ。これまで嫌というほど経験したし」


 上位貴族は凄い世界だぜ。

 エレナの美貌をもってしても、歯牙にもかからないなんて。


 やはり身分の差は大きい。上位貴族の中にあっては伯爵家とて有象無象の存在みたいだ。


「じゃあ、よろしく。俺は最底辺の男だけど」


「あはは、無理矢理にキスしたくせに?」


「怒ってなかっただろ!?」


 俺たちは我先にとダンスを始めた。

 習得したダンス(得意)スキルのおかげで、俺は自由に踊れたんだ。


 めちゃくちゃに気持ちいい。狭いテラスではなく、ダンスルームで踊るのは本当に楽しかった。


『ダンス(得意)はダンス(マスター)に昇格しました』


 え? もう昇格?

 何ていうか、俺はやはり幸運すぎる。先ほど習得したばかりのスキルが早速と昇格しているのだから。


「リオ、すっごく上手! 貴方ってダンスの才能があるんじゃない?」


 俺の変化にエレナは気付いたらしい。

 いやまあ、得意からマスターに昇格したからな。言うなれば、趣味でやっていたものが職業になったみたいなものだし。


「どんどん踊ろう!」


「ええ、喜んで!」


 俺は本当に楽しかった。ダンスもさることながら、相手がエレナなのだ。

 好きな人と好きなだけ踊る。それがこんなにも感情を刺激するなんて考えもしないことであった。


 アップテンポな曲のあと、スローバラードが始まる。ここでも俺たちはパートナーを変えることなく一緒だ。


 聞けばスローバラードのあとは休憩が入るらしく、二曲ないし三曲がワンセットになっているとのこと。つまりセットが終わるとパートナーを変更したりするみたいだ。


 スローバラードが終わる。すると、予期せぬことが起きてしまう。

 どうしてか踊りきった俺とエレナに盛大な拍手が送られていたんだ。


「え? 何これ……?」


 俺は唖然としていた。

 下位貴族であり、パートナーもまた夜会においては最低ともいえる伯爵令嬢だ。なのに、大注目を浴びるなんて想定していない。


「リオが上手だったから、皆が見ていたのかも……」


 エレナもまた困惑しているようだ。

 やっぱダンスマスターのスキルは並ではなかったらしい。こんなにも観衆を沸かせてしまうなんて。


 戸惑う俺たちを更に当惑させるような台詞が届く。

 どうしてか俺たちのところに、夜会の主役である彼女が現れてしまったのだ。


「其方は名を何というのじゃ?」


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