第62話 続きはまた
「リオ……何を……?」
唇を離した俺にエレナが言う。
何をってキスだ。勢いに任せたのは悪かったけれど、俺は誰よりも君が好きなんだ。
「すまん。衝動を抑えきれなかった」
とりあえずは謝罪を。いつもに増して綺麗に着飾ったエレナに我慢できなくなったんだ。
「まあ分かるけど。モニカのせいよね……?」
ぶっちゃけその通りだったりする。隣でおっぱじめられてはキスくらい良いかと思ってしまった。
「でも、ここじゃ嫌。それくらい理解して欲しい」
友達が横でシテるんだもんな。流石にキスを交わすような雰囲気ではなかったみたいだ。
「ごめん。エレナがいつもより綺麗で我慢できなくて……」
「別に良いわ。だけど、もう今日は駄目。日を改めてね」
今日は駄目ってことは明日とか明後日とかなら良いってことか?
日を改めたのなら、またキスしても良いってことなのか?
「本当か……?」
「ええ、約束したじゃない。色々と葛藤もあったけど、何だか吹っ切れちゃった。正装したリオはまるで英雄みたいだもの。私の夢が叶ったのかと思った」
どうやらガラムが見繕ってくれた衣装はエレナのお眼鏡にかなったらしい。
彼女の夢である英雄の妻になること。少しでも感じられたようだ。
「俺は絶対に英雄になるから!」
「はいはい。頑張ってね? 私もそれを願っているわ」
◇ ◇ ◇
「はいはい。頑張ってね? 私もそれを願っているわ」
焦ったぁぁ!
まさかリオが無理矢理に襲ってくるとか思いもしなかったわ。キスだけで済んだのはリオがヘタレだからよね。
それにリオも初めてだろうし、流石にテラスでするのは躊躇ってしまったのでしょう。
「エレナ、俺はまだ踊りたいのだけど?」
んん? まだ練習したいのかしら?
だけど、もう時間がない。それに先ほどのダンスなら失笑を買うことにはならないと思う。
「そろそろ始まると思うよ? 楽団の演奏も終わったし」
楽団の演奏が終了したってことは歓談の時間が終わった証し。
幾ばくもなく主催者であるソフィア王女殿下が壇上に現れることでしょう。
「あっ、始まるみたいよ! ほら、ソフィア様が!」
リオは目を丸くしています。
何だか可愛い。まあ、南部の下位貴族が王女殿下のご尊顔を拝見する機会なんてないだろうからね。
私だって、こういった夜会やお茶会でしかお会いした経験がないくらいだし。
「ソフィア様って幾つなんだ?」
「はぁ? まさか立候補しようってわけ?」
「まさか! 畏れ多いよ。若く見えると思っただけ」
ああ、年齢すら知らないのか。王都周辺と南部の地域差を覚えずにはいられないわね。
「ソフィア殿下は十六歳よ。婚約者はいないから、これから交流を増やしていかれるのだと思うわ」
「ま、俺には関係ないな。この場にいるのも不適切だし」
「リオは辺境伯様の推薦だし、誰も文句を言えないわ」
変態であっても、ガラム様は辺境伯閣下なんだもの。
対抗できるのは公爵家か王家の面々くらい。そんな閣下に推薦されたリオを誰が追い出せるってのよ。
私たちが話をしていると、壇上に上がったソフィア殿下が挨拶を始める。
それでまあ、姫殿下の第一声に私たちは度肝を抜かれていたの。
もっとも、それは私たちだけの話ではなく、殿下の側にいた召使いたちでさえも、盛大に困惑していたのよ。
「皆の者、妾は格好いい男を所望しておる!」




