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第006話 薔薇色の未来を想像して

「よっしゃ、かかってこい!」


 俺は完全に開き直っていた。


 明らかに後衛職であるけれど、物理攻撃にて戦ってやんよ。しかも棒切れ一本でな。


「こんなところで負けてたんじゃ、絶対に成り上がれねぇし」


 やはり俺はエレナを手に入れたい。従って、この先には困難しか訪れないだろう。


 七等級の魔物くらい退けられて当然。伯爵家のご令嬢に婚姻を申し込むよりも、ずっと簡単な作業であるはずだ。


 俺が棒切れを構えると、ホーンラビットが飛びかかってきた。


「馬鹿の一つ覚えか!?」


 もう何度も見た。やはり危険度七等級というのには理由がある。


 ホーンラビットの攻撃は頭突きだけだ。単調な攻撃しかないのだから、焦る必要はない。


「クソッタレ!!」


 何とか躱して、俺は棒切れを振り回した。


 鈍い手応え。ぶっちゃけスライム以外と戦うのは初めてであったけれど、確実に叩いた感触が手の平に伝わっている。


「死ねぇええええっ!!」


 飛びかかるホーンラビットを叩き落とした俺は尚も殴りつける。


 もう二度と動き出さないように。痛めつけてくれた礼を返すようにして。


「はぁ……やったか?」


 動かなくなったホーンラビットを眺めていると、脳裏に通知が届いた。


『スキル【打撃得意】を習得しました』


 それは噂に聞く神による加護みたいだ。


 洗礼を受けた全員に可能性があるものの、女神の声を聞くには高い信仰値を必要とするらしい。どうやら俺はジョブ僧侶のおかげで、女神様の声を聞くことができるみたいだ。


 主に生活スキルを入手した場合に聞くとされる女神様の加護であるけれど、戦闘中であったためか、俺が得たものは生活に関係のないスキル。どうも棒切れで魔物を倒したことによって習得した感じだ。


 棒切れ様々だな。エレナのドラゴンバスター(虚偽)とは明確に信頼度が異なる。


「いや待て。これならエレナに打撃武器を作ってもらえば良いのでは?」


 俄に希望を抱く。まあしかし、別に彼女の腕に期待したわけじゃない。


 エレナに会う口実ができるんだ。加えて、打撃武器ならば作りやすいはずだろ?


「製作途中に握りを確かめたりして、互いの手が触れたり。それか、大槌は重いから一緒に運んだりして身体が密着したり?」


 やべぇ。これはきっと蜜月ってやつだ。


 エレナが完成させるまで、俺は工房に入り浸れるし、彼女と触れ合えるかもしれない。


「妄想が捗りすぎるじゃねぇか!」


 大槌を鍛造して疲れたエレナを癒すために、俺はそっと彼女の白い肌に触れるんだ。


 粉雪のように一瞬にして溶けてしまいそうだけど、俺は優しく彼女の肌を撫でる。


 そしたらエレナは頬を染めて静かに目を瞑るだろうな。間違いなく、それは口づけのサイン。俺とエレナはこうして結ばれていく……。


「完璧じゃないか! さっさと戻って依頼してみよう!」


 俺は薬草集めを中断。幸いにもホーンラビットという戦利品もあるし、買取額を含めると晩飯くらいは食べられるだろう。


「野宿でも構わねぇぜ! ヒャッハー!!」


 まるで悪人のような歓喜の声だが、気にする必要はない。


 ここは誰もいない森の中。もし仮に視線があったとして、浮かれる俺を嘲笑うのは角付き兎くらいなものだ。


 喜び勇んで俺は王都セントリーフへと戻っていた。


 絶対にエレナは喜ぶはず。今までにオーダーメイドなんか受けた経験がないだろうからな。


「ユノ、早く換金してくれ!」


「ちょちょ、待ってくださいよ! てか、リオさん血まみれじゃないですか!?」


 早くして欲しいのに、ユノは穴だらけとなった俺のローブを気にしている。


 そりゃ何度も風穴が空いたのだから、血痕くらい残るっての。だけど、傷は塞がっている。生きているからこそ、俺は冒険者ギルドへ戻ってきたんだ。


「平気だよ。あとこれの換金も頼む」


 俺は腰に括り付けたホーンラビットの亡骸をやや乱暴にカウンターへと置く。


「解体は受付じゃ……って、これレインボーホーンラビット!?」


 何だかよく分からんが、まるで話が進まない。俺は換金してくれたのなら、それで良かったというのに。


「レインボーホーンラビット? 角兎と何か違うのか?」


「知らないのですか? めちゃくちゃレアな魔物なんですけど」


 ユノ曰く、レインボーホーンラビットが持ち込まれたのは十年ぶりとのこと。

 めちゃくちゃレアってことは破格で取引されるってことかな?


「それってお金になる?」


「もちろんですよ! 肉はとろけるほど軟らかく美味であり、毛皮も高級なバッグに使用されるほど。またこの角が高額買い取りの対象でして……」


 おいおい、ようやく俺にも運が巡ってきたのかもしれん。


 ユノの話を鵜呑みにすると、今日はまともな宿に泊まれるくらいの報酬が受け取れるだろう。


「でも、凄いですよ。とてもすばしっこくて警戒心が強いのです。関知スキル持ちだと考えられている魔物で、冒険者どころかワーラットが近付くだけで逃げていくほど臆病なんです」


 俺は頷きながらユノの話を聞いていた。


 まさか褒め殺しから、一転して落としにかかってくるなんて考えもしなかったんだ。


「確実に勝利できる戦いしか挑まないのがレインボーホーンラビットです。小動物くらいしか戦わないみたい。だから、レインボーホーンラビットに襲われるなんて考えられません!」


 ああ、うん。もう分かったからやめてくれよ。


 俺のか弱いフラジールハートはもうライフがゼロなんだぜ?


「リオさんって、子リス並なんですね!!」


 あーん! 全部言っちゃったよ、この子……。

 しかも、ギルド中に響き渡る大声で。


「レインボーホーンラビットに襲われて血まみれとかビックリしましたよ!」


 大きな笑い声が木霊する冒険者ギルト。その渦中にいるのは間違いなく俺だ。


 身体から魂が抜け出ていたのは語るまでもないだろう。

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