第60話 難解な台詞
俺はどういうわけか王城で開催される夜会に参加することになっていた。
ガラムが言い出したことなんだけど、エレナも参加するっていうのだから、行くっきゃないよな。
それにしても着飾ったエレナはマジで女神だ。
めちゃくちゃ綺麗。可愛い。抱きしめたい。
「リオ、なかなか似合ってるじゃないの?」
俺はガラムに衣装を用意してもらっている。流石に汚いローブで出席するわけにはならないのだと。
「そうか? 少しキツいけどな。最近、筋力が付いてきたみたいだし」
「パリッとしてていいよ。かかか、格好いいかも……」
マジで? ここでエレナがデレるなんて思いもしなかったな。
ガラムが用意してくれた服は意図せず俺を英雄的な仕上がりにしていたらしい。
「リオ君、ガラム様はどこへ行ったの?」
初対面だというのに馴れ馴れしいのはエレナの友達であるようだ。
モニカという西部の伯爵令嬢。まるで眼中にないけれど、積極的に絡もうとしてくる。
「モニカ、私はリオと踊るから、貴方は適当な相手を捜しなさい」
「ええ!? 相手が見つかるまで付き合ってよ! エレナを餌にして呼び込むつもりなのよ!」
「あんたねぇ、婚約者がいるんだから、大っぴらに動いちゃ駄目だよ。こっそり動きなさい」
何だかエレナが常識人のように見える。
てことは、モニカって相当な馬鹿かもしれない。しかし、婚約者がいるというのに、励もうとしているなんて、やっぱ王都はヤバいところだな。
「さて、会場に入りましょうか」
言ってエレナは左手を差し出した。
んん? 握手か?
わけ分からんけど、パーティーの成功を望んでいるのかもな。
「ちょっと、リオってば握手じゃないって! エスコートしろって言ってんの!」
言ってねぇじゃん。
手を出したから握っただけなんだけどさ。
「エスコート? 俺はパーティーとか出席したことないのだけど」
「本気? 南部じゃパーティーしないの?」
パーティーというか、収穫祭とか領民と一緒に騒ぐくらいだな。
副都にいけばパーティーくらい催されているだろうけど。
「ほら、手を取って! ゆっくり歩いて行くのよ?」
俺はエレナに促されるまま、彼女の手を取って歩き始めている。
受付は既にガラムがしてくれたようで、俺は招待状もなく中へと入ることが許された。
「すげぇ……」
俺は圧倒されていた。煌びやかすぎるその空間に。
華やかに着飾った男女。更には贅の限りが尽くされた会場は田舎の下位貴族である俺にとって刺激的すぎる。
「とりあえず、何か食べましょ? モニカは男の物色に忙しいだろうし」
既にモニカは去って行った。
一夜限りのアヴァンチュールを求めて、彼女は会場入りするや好みの男を捜し始めている。
「俺、場違いじゃないか?」
恐らく男爵家の一員なんて俺しかいない。准男爵がいるはずもないのだから、この場で俺は最低の階級になるだろう。
「別に問題ないわ。私たちでさえ誰も気にしない。皆の視線を集めるのは王族や公爵家といった面々の方たちだもの」
エレナでも、その他大勢に含まれてしまうのか。ならば俺は草木同然。ああいや、完全に空気だろうな。
「それでリオ、私は確認したいことがあるの……」
二人きりになったからか、エレナは話を始める。
確認事項は恐らくリズさんとの関係だろう。俺たちが交際するにあたり、有耶無耶にしていないかどうかと。
「ああ、分かってる。でも、ここじゃなんだから……」
「そうね。流石に人目の付くところは嫌よ……」
どうしてかエレナが手を引っ張り、会場の隅にある小さなテラスへと到着。どうしてか、彼女は周囲を確認しているのだが、一体何を探しているのだろうな。
「大丈夫。誰もいないわ!」
「徹底してるな……」
確かに侯爵令嬢の話をするのだ。密談であるべきであって、誰かに聞かれて良いものじゃない。
「でも、私はどうしたらいいのか分からないの……」
俺を引っ張ってきたものの、エレナはまだ悩んでいるらしい。もし仮に俺がリズさんとの関係を断っていたとしても、俺の気持ちを受け入れるべきか分からないようだ。
「エレナ、(リズさんとの関係解消は)俺が何とかする。任せてくれ」
「ちゃんとリオにできるの!? (初体験が)失敗に終わったら目も当てられないわ」
やはり侯爵家とはのっぴきならない相手らしい。しかもメイフィールド伯爵家は寄子だというし、関係悪化を望まないのかもな。
「とりあえず、会場に戻ろう。経験豊富なガラムに話を聞くべきだ」
「ガラム様は駄目よ! だって、(彼は覗き見るつもりだし)そんな……」
どうしてかエレナは難色を示す。ガラムなら良いアドバイスをくれると思うんだけどな。
「経験豊富なのは分かってるけど、ガラム様だけはやめて……」
どうにも遺恨があるのかもしれない。
上位貴族が対立するって話も聞いたことがあるし、エレナにはガラムに貸しを作りたくない理由があるのだろう。
戸惑う俺に構わず、エレナは更なる難解な台詞を吐くのだった。
「早く抱きなさいよ――」
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