第54話 大物
「獄炎の使徒の出番はまだ先じゃ……」
何言ってんの、この爺さん……。
妙な二つ名を付けんじゃねぇって。
「獄炎の使徒でしょうか……?」
「うむ。リオは大精霊サラマンダーの加護を得ておる。恐らくフレイム以外にも習得しておることじゃろう」
「本当でしょうか!?」
あんま真に受けんなよ。
テッドって人は爺さんの話を信用しすぎだ。
「リオよ、他に何を習得した? 大精霊の加護はフレイムだけを授けるものじゃないはずじゃぞ?」
知っているなら聞くな。
俺だってよく分からないっての。
「他はヒートストームとメガバースト……」
「メメメ、メガバーストだって!? 閣下、この少年は!?」
ちょっと待て。俺はまだ話の途中なんだけど。
あと一個あるなんて言いにくくなるじゃないか。
「それとインフェルノ……」
ボソッと呟くように言った。聞こえなければいいと。
だって、順番に強くなるのなら、最後のインフェルノってヤバそうだし。
とはいえ、意外と二人は静かに聞いてくれた。もしかすると、俺の声が聞こえなかったのかも。
「ガラム閣下、インフェルノと言えば、伝承において魔王が放ったという獄炎でしょうか?」
あれ……?
聞こえてたのね。
大騒ぎしない理由はインフェルノという魔法がどんなものなのか理解できなかったからのよう。
「恐らくそうじゃろう。女神様による光の加護があったおかげで、勇者は獄炎を生き延びたとある。やはり大精霊サラマンダーは当時を知る一柱なのかもしれん」
「彼がその使徒であると仰るのですね?」
俺を余所に話を進める二人。インフェルノの分析かと思えば、サラマンダーについて語っている。
「どうも世が荒れる前触れかものぉ。神が動けば世界は必然と動くものじゃ。危機に際して神は動くのじゃからな」
いや、待て。たぶんそれは飛躍しすぎだ。
別に俺は使命なんかもらってないし、サラマンダーはノリで加護を与えただけだって。
「ちょっと待ってくれ。サラマンダーと会ったのは事実だが、あいつは俺が女神様に気に入られていると話していたんだ。まあそれで、女神様に対抗して加護をくれただけ。それは特別な意味を持たないはずだぞ? 何しろ、サラマンダーはお礼だと言ったんだ」
「お礼じゃと?」
「ああ、俺は炎の祠に住み着いたファイアードラゴンを討伐したからな。助かったと話していた」
一瞬の間。俺が返答を終えてから、妙な沈黙があった。
「「ファイアードラゴンを討伐したぁぁ!?」」
大声を揃えんなって。
耳が痛えよ。そのまんま返してくるんじゃない。
「いやリオよ、お主は炎の使い手じゃろ!? ファイアードラゴンに火属性は効かぬ。どうやって倒したのじゃ!?」
「爺さんこそ、落ち着け。エンカウントした際は魔法など持っていなかったんだって。俺はファイアーを授かろうと炎の祠へ行ったわけだからな」
「むぅ、それはそうじゃな。して、討伐したとはどうやったのじゃ?」
炎の祠の意義をガラムも分かっている。決して攻略するようなダンジョンじゃなく、祭壇に祈りを捧げるものであると。
「いや、鍛冶で使う大槌で戦ったんだ。風圧ってスキルで炎を無効化して、脳天を叩き割った」
「まことか!? 確かに修行で鍛えておればダメージは入るじゃろうが、お主は僧侶じゃろう?」
「えええ!? 彼は僧侶なのに、フレイムを唱えるのですか!?」
うるせぇって。
話の途中で怒鳴んじゃねぇよ。
「俺は打撃職人というスキルと、会心率上昇ってスキルを持っている。だから、脳天の良いところに完璧な一撃を叩き込めたんだ」
「恐るべしじゃ。リオよ、今の暮らしを続けたいのなら、この話は誰にもするな。有用なスキルを幾つも持った若者は利用されるだけじゃ。旨い話について行くんじゃないぞ?」
「子供じゃねぇんだぞ? ホントに爺さんは馬鹿だな……」
「おい君、不敬だぞ!? 閣下に謝罪しろ!?」
テッドって人はマジでうるさいな。
驚くだけでなく、叱責まで大声でするなんて。
「ああ? 別に爺さんが良いと言ってるんだ。何を取り繕う必要があるってんだ?」
同じ田舎者同士。年齢差はあったけれど、俺の言葉遣いをガラムは気にしない。友達にも似た関係だっての。
しかし、俺は聞かされている。テッドが語る不敬とは何であるのかを。
「ガラム閣下は辺境伯様なのだぞ!?」




