第51話 初めての受注
「それはリオが使うためのロッドじゃ……」
えっ?
俺のなの? でも、どうして?
「いやいや、俺は別にロッドなんか必要ないぞ? 炉に火をくべられたら良いだけだ」
「そういうな。どうせまだ客に製品を作ったこともないのじゃろ? ワシは鑑定眼を持っておる。ワシを唸らせるようなロッドを作るのじゃ」
ひょっとして俺が作るように言っているのか?
俺はまだ成形前の鉄を鍛錬するところしか、させてもらっていないのに。
返答に戸惑っていると、ドルース師匠がやって来た。
「ガラム様、その注文を引き受けさせてもらいます。言っておきますが、リオには才能がある。いきなり納得できるものはできないでしょうが、その都度改良させてやってください。必ず満足するロッドが完成するはずです」
「ちょっと、師匠!?」
なぜか師匠もまた乗り気のよう。
どうして、未熟な俺に成形まで任せるというんだ?
「ただし、才能はあっても、まだまだです。その辺りもご考慮いただければと存じます」
「構わぬ。リオが打ったものであるのなら、ワシが納得するまで作り直せばよい。見た目は気にしない。大事なのはどれだけの力が宿るのかということ。難癖つけるつもりはないのじゃ」
「それなら、お引き受けします」
俺を余所に話が進んでいく。
まあ確かに最初の客として爺さんは適切かもしれない。どうせガラムは俺にそのロッドを渡すつもりだし、工房に悪影響などないし。
だったら、俺もこの話をチャンスだと考えるべきかもな。
「分かった。ガラムの話を受けるよ。ただし、最高のものができあがっても、文句をいうなよ? そのロッドを使わないと話したこと、後悔させてやるからな?」
「ふはは、構わないぞ! 寧ろ、そうなることを願っておるわい。とりあえず、白金貨を手付けとして払っておく。必要なら追加で用意するのじゃ」
気前がいいな。
白金貨とか貴族しか持っていないのかと思いきや、しょぼくれた爺さんでも持っているみたいだ。
こうなるとド田舎の男爵家が不憫に思えてくる。あとを継ぐ立場じゃなくて良かったぜ。
「では、一つだけ要望を。現状の高溶解炉でミスリルを溶かす火力に耐えられるか分かりません。新しい炉を作らねばならないのです」
「ふむ、確か極耐熱溶解炉じゃな。それはワシが手配しよう」
何が何だか分からんが、全てガラムが請け負ってくれるみたいだ。
しかし、俺に恩を売って、魔道士団員にするつもりじゃないだろうな?
「俺は魔道士団になんぞ入らんぞ?」
「昨日も言ったが、ただの準備じゃよ。リオは気にしなくても良い」
分かってるのなら良いけど。
ホント、食えない爺さんだな。
「店主殿、工事は追って知らせる。よろしくの」
結局、スミスには何のデメリットもない感じだ。
それなら俺は力一杯にミスリルを打てるよう努力していくだけだ。
何となく俺の人生に輝きが灯ったような気がする。
俺が成り上がっていく道程が仄かに浮かび上がったかのように。




