第49話 悩ましい問題
私は店じまいをしてから、店舗のカウンターに座っていました。
今日の売り上げもゼロ。やはり立地が悪いせいで、一人のお客さんもやって来ません。
「今はナイフしかないけど、切れ味抜群なのにな……」
店頭に飾っているナイフを手に取っては、試し切り用の木材を斬ってみる。
スパン――――。
ほらね?
切れ味は最高で、片手でも軽く木材を真っ二つにできます。加えて、その耐久性も問題ありません。
「だけど、リオは刃物の扱いが下手くそなのかしらね? どうやればドラゴンバスターを折ってしまうのかな?」
不思議でならないこと。ドラゴンバスターは私も試し切りをしたけれど、かなり太い木であっても、難なく一刀両断にできたのです。
光の速さで壊してしまうなんて、やはり僧侶というジョブは戦闘に適していないのかも。
「まあ、私のジョブは剣聖だし、少しくらい補正が入っているはずだけど」
私のジョブは剣聖です。教会で詳しく調べてもらうと、初期スキルとして【武具扱い(神)】っていうのがあると分かりました。
何でもそのスキルは武具の能力を1000%引き出せるようで、その効果は少なからず私の打った剣にも及んでいるはず。
「にしても、リオは下手すぎるんだよ。そんなに簡単に壊れるわけないもの」
やっぱ、リオじゃ英雄になれないのかな。
深い仲になったとして、私の夢は叶わないのかもしれない。
「あーあ、どうしよう。もしもリオが侯爵様の申し出を断れなかったなら。ああいや、問題は上手く断った場合かもしれないわ」
リオは私の身体を求めるあまりに、リズ様との婚約を断るつもりなのよ。
遊びなら遊びで割り切ったら良いのに、どこまでも私の身体を弄ぶつもりみたい。リズ様という高物件を自ら排除してまで。
「リズ様だって、健康になったら身体つきも変わってくると思うのよね。私が特別に胸の大きな女ってわけじゃないし」
もし仮にリズ様が成長あそばされて、巨乳になったのなら。
そのとき、リオはどう反応するのだろう。
「リオってば、ああ見えてスケベだから、リズ様になびくかも……」
なぜに私の身体が良いのか分からないわ。
だとすれば、別に誰でも良いのかも。そうなると、リオはリズ様の身体を求め始めるかもしれない。
「断ると話してたけど」
侯爵様が乗り気だし、リズ様だって本気みたい。あとはリオの気持ち次第ってことは、もう未来が決定しているようなものなんじゃない?
「リオは侯爵家の跡継ぎになる……?」
何だか胸が痛む。リオが遠くに行ってしまったようで。
私は割とリオが成功することを望んでいたというのに、実際に成り上がる様子を見たくないってことかな。
「でも、そうなると私は妾か……」
自分自身が何を考えているのか判然としないわ。この燻った感情は何なのかしら。
「私って行き遅れが確定してんのに、リズ様に嫉妬してる? リズ様だって同じ行き遅れだもの。正妻に選ばれる彼女が妬ましいのかな」
きっとそうだわ。私は正妻になれないことを嫉妬してる。
伯爵家の三女である私が伯爵家を継ぐなんて絶対にないし、私は嫁いでなんぼの身分だもの。行き先が愛人だなんて、やはり心の奥底で拒否しているんだ、
「そっか……。一夜限りの関係とか興味はあったけど、私は意図せず先々を考えていたのね。リオに弄ばれてしまった先の話を……」
王都で羽目を外すなら、成人する前が良かったんじゃないの?
既に十八歳になってしまったし、今から遊ぶと益々嫁ぎ遅れてしまうわ。
「だけど、リオには約束しちゃったし、夢である英雄様は私の前に現れないし……」
うん、私の人生は詰んでるわね。
希望が叶う未来とかないみたい。こんなことなら、もっと積極的に夜会とか参加しとけば良かったのかも。
英雄とはいかなくても、騎士様くらいなら相手にしてくれたかもしれないし。
「私、このままだとヤバいな。モニカが王都に来るみたいだし、相談してみよう」
上手い具合に、モニカは王都へ出てくる用事があるらしい。
恋愛巧者である彼女ならば、良いアドバイスをくれるはず。
私が行き遅れない、且つ夢を叶える算段。モニカならば私の力になってくれるはずよ。
まるで将来が定まらない私を彼女が誘ってくれると信じるしかありませんね。




