第46話 不穏な話
「大精霊は神に匹敵する存在じゃぞ……?」
えっと何?
あの可愛らしい妖精が神様だって?
「マジで? あいつは俺に大精霊の加護をくれたんだけど?」
「大精霊の加護だとぉぉぉっ!?」
うるせぇって。
鼓膜が破れるじゃねぇかよ。一々、聞き返すんじゃないって。
「そしたらフレイムとか四つの魔法を習得した」
呆然と頭を振る爺さん。静かなのは有り難いけれど、黙ってねぇで何か言えってんだよ。
「あり得ん……。基本的に魔法使いは女神の声を聞けないというのに」
「んん? 女神の声って信仰心が必要なんだっけ?」
「うむ。魔法使いは魔の力を使う者を指す。よって、信仰値が低くなってしまうのだ」
「俺は別に魔法使いじゃないし。僧侶だからな……」
「えええええっ!?」
うるさいのか黙ってるのか両極端な爺さんだ。
俺が僧侶であるのが、そんなにも驚愕することだったのか?
「お主、僧侶であるというのに最高ランクのフレイムを唱えたのか!?」
「最高ランクって何だよ? フレイムはフレイムだろうが……」
「それすら知らんとは……。よいか? 魔法には全てランクがある。調べるのは簡単じゃないが、概ね五つにランク分けされておるのだ。お主が唱えたフレイムは間違いなくランク5。それ以上であっても驚かぬわ」
ホントによく分かんねぇ爺さんだ。調べるのは簡単じゃないと言いながらランク5ってのはどういうことなんだよ?
「どうやって調べた?」
「調べとらんわい。攻撃魔法はその威力で大凡予想できるというだけじゃ。かつて見たランク5のフレイムに勝るとも劣らない威力じゃった。よって最高ランクだと思うただけじゃよ」
なるほどね。
過去の記憶と照合したことで判明したってことなのか。
「で、僧侶がフレイムを唱えると何か問題でも?」
「大魔道士でもなければ、あり得ぬことじゃぞ? まして最高ランクのフレイムじゃからなぁ」
そもそも俺はサラマンダーにもらっただけだ。一から学んで習得したわけじゃないからな。誰かと比べるのが間違っている。
「お主、名を何という?」
「俺か? 俺はリオ・スノーウッドっていうんだ」
「ほう、男爵家の跡取りであったか?」
あれ?
この爺さん、スノーウッド男爵家を知ってんのか?
あり得ないほどド田舎にあるのだけど。
「知ってんのか? 男爵領は何もない田舎だぞ?」
「此度も通ってきたし、かつて男爵領にワーベアが大量発生したことがあったじゃろ? ワシはその駆除を任されていたのじゃ」
ああ、それなら覚えてるぞ!
俺が確か八歳の頃。所領のあちこちにワーベアが現れて、領民が多数亡くなったんだっけ。それで父上が討伐依頼を国に出したんだった。
「あのときの爺さんか!? まだ爺さんやってたんだな!?」
「失礼な奴じゃな。しかし、その通りじゃ。ワシの魔道分隊に出撃命令が下りたのじゃよ。それでスノーウッド男爵領へ向かったのじゃ」
「そっか、あのときは助かったぜ。ぶっちゃけ子供は外にも出られなかったんだ」
最終的にワーベアの討伐数は百を超えていた。冒険者では手が回らず、国を頼るしかなかったってわけ。
「んなわけで、ワシは王宮魔道士団の一員。別に金がなくて歩いておったわけじゃない」
「そうなのな。身なりから、ただの爺さんにしか見えなかったぜ。それで王都に呼ばれた理由は何だ? もう隠居してもよさそうなのに」
聞けば、古めかしいローブは盗賊などに襲われる面倒を避けるためだという。確かに、しょぼくれた爺さんを襲う野党などいないと思う。
それで爺さんは俺の問いに答えている。
想像すらできないその理由を。
「どうやら災厄が目覚めたらしい」




