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第44話 熟練度

 グレイス侯爵邸での用事を済ませた俺は馬車を手配して、街を出ようとしていた。


 かといって、別に男爵領へ帰るわけじゃない。俺はただフレイムの熟練度を上げようと考えているだけだ。


「良い御者が見つかったな。信頼できそうだし」


 御者の男性は冒険者ギルドにも登録しているらしい。身分がハッキリしているだけでなく、会話の受け答えも誠実そのもの。俺が気を失ったあと、工房まで届けてくれるという約束を交わしていた。


「大金はスミスに置いてきたし、昏倒後に身ぐるみ剥がされたとして、銀貨を数枚盗まれるだけ。だから何の問題もない」


 街門を抜けた馬車が焼け野原となった草原を通過していく。


 いや、マジこれ?

 かなりの範囲が焼け焦げたままだ。確かに、この惨状であれば、テロリストと間違われてしまうのも頷ける話だな。


「フレイムやべぇ……」


 本日は馬車を雇ったので王都からかなり距離を取るつもり。仮に大火災が起きたとしても、王都から確認できないほどの距離を考えている。


 しばらく俺は眠っていた。御者に起こされるまで眠りこけていたんだ。


「お客さん、この辺りでどうです? 王都から一時間は離れています」


「ありがとう。恐らく俺は魔法を撃つと昏睡します。あとは手筈通りよろしくお願いしますね?」


「ああいえ、割の良い仕事で助かりました。こちらこそよろしくお願いします」


 本当に良い人だな。聞けば馬車を買ったばかりで、本業の荷馬車業はまるで軌道に乗っていないらしい。まさに俺の幸運が彼と引き合わせてくれたのだろうな。


「よっしゃ、行くか!」


 荷台から飛び降りるや、俺は構えていた。

 何もない荒野に向かって、掌を向けている。


「お主、何をするつもりだ?」


 ところが、俺は不意に声をかけられていた。


 振り向くとそこにはローブを身に纏ったご老人の姿。興味津々に俺を見ていた。


「爺さん、危ないから、それ以上は近付くなよ? 俺はこれから強大な魔法を撃つ予定なんだから」


 誤って爺さんを焼いてしまえば、確実に牢獄行きだ。従って、事前に注意しておかねばならない。


「ほう、どんな魔法なのじゃ?」


 面倒くさい爺さんだな。

 まあしかし、俺は一発撃てば魔力切れを起こして卒倒してしまう。従って相手をする時間がないわけではない。


「ああ、フレイムという魔法だ」


「フレイム? それは大きく出たのぉ」


 全然、信じてねぇな。だけど、師匠も驚いていたし、嘘だとしか思えないのかもしれん。


「ま、見てたら分かるよ。俺は別に嘘をついていない」


「ほう、ならば暇つぶしに見学させてもらおう。もうずっと街道を歩くだけだったからの。王都までは遠いのじゃよ」


「ああ、馬車賃がねぇのか。しゃーねぇ。乗せてってやるよ。俺は魔力切れで気を失うけど、そこの御者に頼んでくれ」


「むぅ? 本気でフレイムの術者か?」


「俺が爺さんに嘘をついてどうする? 可愛いお姫様なら格好もつけるけどな?」


 確かにと爺さん。完全に観衆となったらしく、爺さんは腕を組んで俺が魔法を唱える瞬間を待っていた。


 なら、見せてやるよ。オシッコ漏らしても知らねぇぞ? 年を取ると失禁しやすくなるっていうし。


 俺は荒野に向かって手をかざし、数日ぶりにフレイムを唱えるのだった。


「フレイム!!」


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