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第43話 断り文句

「だから俺はこの縁談を断ります」


 これでいい。ただし、侯爵様には言っておかなければならなかった。


「しかし、全て俺の意志であり、実家やメイフィールド伯爵家は無関係です。もしも、何かしらの罰を与えるというのであれば、俺だけにしてください。俺は甘んじて断頭台にでも登って見せます」


 俺の行動に対する責任は俺だけのものだ。周囲にまで影響を及ぼしてはならない。


「ご立派ですわ。リオ様、恋愛は自由だと物語で読みました。貴方様の想いは尊いもの。叶う叶わないは別として輝いているかと存じます」


 意外にもリズさんは俺を肯定してくれる。


 もしかすると盲目的に突き進むだけの性格ではないのかもしれない。


「であれば、わたくしも自由ですの。一途にリオ様をお慕いすること。それは貴方様に咎められる道理などございませんわ」


 えっと、どうしてそうなんの?

 俺は交際をお断りしたというのに、リズ様は俺のことを好きであり続けるように話すのだ。


「ふはは、リオよ、諦めろ。リズはこう見えて頑固なのだよ。薬もちゃんと説明を受け、納得しなければ飲んだりしなかった。身体こそ弱かったが、意志の強さは誰よりもある」


 何てことだよ。

 一大決心をして断ったというのに、俺たちはスタート地点に留まったままじゃないか。


「リオ様、わたくしはいつまでも待つことにしますわ。そんな時間でさえも愛おしく感じます。だって、あと一ヶ月しかなかった命なんですもの。先を見据えて待つことができる。わたくしはもう既に幸せなのですよ」


 どれほど、できた子なんだろうな。

 俺の持つ上位貴族のイメージとは明確に異なる。


 それも全て病気のことが理由じゃないかと思う。我が侭を口にしたとして、病気が治るわけではない。彼女は現状を受け止める大きな度量が備わっているのだろう。


「分かりました。俺は今まで通り、エレナにアタックし続けます。それで構わないでしょうか?」


「もちろんですわ。わたくし、元気になれば女を磨きます。貴方様に振り向いてもらえるように、努力し続けるだけですの」


 完全に断ることができなかったけれど、実家や伯爵家に影響がないならば、俺は受け入れるしかない。


「侯爵様、リズ様もこう仰っております。依頼の件はお金だけで結構です。俺は自分自身の手で成り上がってみせます」


「大した男だな? リズの婿になれば将来は安泰だし、断る男が存在するとは思えん。本当に良いのだな? リズが元気になれば、縁談の話が引っ切りなしに寄せられてくることだろう。そのとき心変わりしたとして、遅すぎるということは充分に考えられるぞ?」


 確かに身の丈以上の話だと思う。男爵家の五男坊が侯爵令嬢を娶るだなんて。


 だけど、せっかく家を出て自由を得られたんだ。俺は望むがままに生きてみたい。

 たとえ上手くいかなかったとして、後悔することはない。寧ろ、チャレンジしなかったことを承諾した俺は悔やみ続けることだろう。


「問題ありません。この先、路頭に迷うことがあっても、俺は自分の力で生きていく。今日という日の決断は俺にとって自然な決定なんです。いつ何時も自分を偽らないこと。それが俺の生き方ですから」


「本当に稀に見る男よな。よかろう、貴殿の意志を最大限に尊重しよう。是非ともメイフィールド家の娘を口説き落としてみなさい。儂は応援するぞ」


 どうしてか良い方向に動き始めている。


 グレイス侯爵が後ろ盾となってくれるのなら、これ以上ない援軍に違いない。たとえメイフィールド伯爵がエレナとの交際に反対しようとも、侯爵様が口を挟んでくれるだけで丸く収まるはず。


「ありがとうございます。俺は精一杯にエレナを口説いていきます」


 かなり厄介な問題に発展するかと思いきや、俺は何とかこの危機を乗り切っていた。


 これも俺の幸運が指し示す未来の一端なのだろうか。


 考えていたよりも、ずっと俺の明日は輝いていた。

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