第004話 冒険者ギルド
数日前にゴリゴリの前衛装備を一式購入した俺なのだが、今は家を出るときに誂えたローブと片手剣を持つだけだ。既に僧侶なのか戦士なのかも分からない微妙な格好だった。
「愛の力で戦うしかねぇ……」
全てはエレナの笑顔を拝むため。戦闘職ではなかったけれど、溢れる愛を力に変えて俺は戦果を手にするしかない。
【冒険者ギルド セントリーフ本部】
勇ましき戦士の嗜みをあとにした俺は、メインストリートを真っ直ぐに進んで冒険者ギルドへと到着していた。
本来なら通りの向かい側にある大聖堂が俺の職場であったはずなのだが、愛に目覚めた俺の職場は荒くれ者たちが集う冒険者ギルドに他ならない。
「いらっしゃーい! ってリオさん、おはようございます!」
受付のユノが手を振っている。
初日からずっと彼女が俺のクエストを担当してくれているんだ。とはいえ、戦闘職ではない俺は採取クエストしか回してもらえんのだがな……。
「今日も採取クエストで良いですか?」
ユノは薄いピンクをした髪を後ろで束ねている。ぶっちゃけギルドのアイドル的存在みたいだが、生憎と俺の視界にはエレナしかいない。
「いや、何か簡単な討伐クエストある?」
「リオさんは黒鉄級冒険者ですし、僧侶なんですから無理です。せめてパーティーを組んでください。支援職を募集してるパーティーなら幾らでもありますけど?」
黒鉄級冒険者とは平たく言えば駆け出し冒険者ってこと。一つ上が赤鉄級となり、鋼鉄級になれば一般的な冒険者といえる。
ちなみに鉄級を脱すると銅級になるのだけど、そこまでいけば、割と裕福な暮らしができるらしい。
「残念だが、俺は魔物を叩き斬るしかねぇんだ。幸せを手に入れるために」
エレナが戦果を求めている。ならば俺はドラゴンバスター(本人談)を使うしかねぇ。
ここ数日のように、ちまちまと採取クエストなんかを受けている暇はないんだ。
「パーティーだと取り分は少なくなりますし、気持ちは分からなくもないですけど」
「ちなみに一文無しだ。保証金がないやつで頼むな」
難易度によっては保証金が発生する。それは無理をしてクエストを受注しないためにあるのだが、エレナに有り金を吸い取られた俺は保証金すら捻出できない。
「ってことは、やはり採取クエストです。討伐クエストは基本的に保証金が必要ですから。割と良い薬草採取のクエストが入ってますよ?」
言ってユノは依頼書を見せてくれた。
依頼主は聖地母神教会。
うん、そこは俺が働こうとしていたとこじゃん。何の因果で教会の下請け仕事を受ける羽目になったんだろうな。
「ほう、薬草十本につき、銅貨五枚か……」
この一週間でした採取クエストより、明らかに実入りがある。単純に二倍以上の報酬であった。
ちなみに銅貨百枚が銀貨一枚。エレナに支払った額を手に入れるには薬草四百本が必要ということになる。
「討伐はやっぱ無理か。何しろエレナが打った剣だしな……」
スライムを斬っただけで折れた実績がある。修行すらしていないエレナに、まともな武具が作れるはずもないな。
ならば俺はこの美味しい依頼を受けるべきだ。そして今晩くらいは野宿じゃなく、安宿にでも泊まることにしよう。加えて、雑草サラダから逃れられるかもしれん。
「ユノ、俺はこの採取クエストを受けるよ。飯を食う金すらないからな」
「頑張ってくださいね? わたしは応援してますよ!」
そんなこんなで、俺はクエストを受注した。
とりあえず、本日の野宿を避けることを目標として。
せめて空腹を満たすことができるようにと。