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第38話 英雄になる人

 師匠たちに経緯を報告したあと、夕飯の時間になっていた。二階に向かおうかというところで、不意に工房の扉が開かれていた。


「遅くなってすまない。ドルースさん、仕上がった剣を受け取りに来た」


 どうやらお客さんであるらしい。

 俺はカウンターの脇に移動し、長身の男にルミアの前を譲る。


「クライスさん、お久しぶりです。なかなか引き取りに来られなかったので、心配しておりました」


「ふはは、ルミアも元気そうでなりより。早速と見せてもらえるか?」


 長身の男は年齢でいうと四十歳くらいだろうか。立派な鎧を着込んでいることから、そこそこの冒険者だと思う。


「クライス、この注文は骨が折れたぞ? とにかく重かったからな。まあしかし、傑作といえる感じに仕上がっているぞ」


 師匠が依頼品という剣を運び出してきた。

 それは巨大な剣。いわゆる大剣なのだろうが、刃が片方にしか付いていない。


「師匠、これは片方しか刃がないのですね?」


 お客さんがいる前で質問もどうかと思ったのだが、問わずにはいられない。この剣は俺が知る大剣ではなかったのだから。


「うむ。これは片刃なのだ。バスターソードと呼ばれるもの。クライスは黄金級冒険者だからな。普通の大剣では直ぐに折ってしまうのだ。だから、背金で補強して強度を高めたバスターソードを使っている」


 なるほど。

 確かに刃が付いていない背の方はかなり分厚くなっていた。これなら、無茶をしても折れそうな気がしない。もっとも重量はそれに比例しているだろうけれど。


「ほう、弟子を取ったのか? 君、名前は何という?」


 急なことで俺はドギマギとしてしまう。

 相手は黄金級冒険者。その上は白金級しかない登り詰めた人なのだ。流石に黒鉄級の俺が名前を覚えてもらうなんてあり得ないことだろう。


「俺はリオです。一応は冒険者もしております!」


「ほう、修行だけでも大変だろうに。ジョブは何だ?」


 世間話的な会話かと思えば、意外と踏み込んできた。

 クライスさんは冒険者というワードに興味が湧いたらしい。


「えっと、ジョブは僧侶なんですけど、打撃職人というスキルを持っていますので、ソロで戦っています」


「おお、なかなか優秀なスキルを持っているじゃないか? 鍛冶としても冒険者としても使える君に合ったスキルだ。試しに私が依頼していたバスターソードを振ってみないか?」


「ええ? 俺は刃物を扱えるスキルを持っていませんよ?」


 打撃武器ならともかく、師匠が打ったのは大剣なのだ。それを俺が扱えるとは思えない。


「いや、こういった片刃の大剣は打撃武器としても使うんだよ。斬り裂くだけじゃなく、部位の破壊をも可能にするんだ。背の方に棘があるだろう? これは打撃でもダメージを稼げるようにとの工夫なんだ。折れにくいだけでなく、双方でダメージを期待できるものが片刃大剣というわけだ」


 おお、打撃武器も兼ねているなら、俺向きじゃないか?


 エレナは剣を持つ英雄に憧れているんだし、この大剣なら彼女も気に入ってくれるはず。


 振ってみろというのだから、俺は試してみるべきだ。せっかくの機会。俺はカウンターに置かれた大剣へと手を伸ばした。


「重っ!!」


「ふはは、それは両手で扱うものだ。まあ、片手で振れるようになれば一人前といえる」


 なるほど。これを片手で操れるようになれば、黄金級に近付けるってことかな。


 俺は両手でバスターソードを握り、構えてみる。工房側の広い空間に向かって振りかぶっては力一杯に振り下ろしていた。


「おっ? 割と筋がいいな? 大槌を振り回しているからか?」


「クライスよ、リオは本当に振りだけは良いのだ。最初からブレることなく鎚を振っておった。重量のある武器が合っているのかもしれんな」


 師匠もまた俺を褒めてくれる。


 いや、俺って簡単に乗せられるタイプなんだよ。そんなに褒めちぎられたら、本気で大剣使いを目指しちゃうかもよ?


「俺、いつか自分の大剣を作ってみたいです」


 言っちゃったよ。

 逃げ道を塞ぐというか、前しか見据えない言葉を俺は口にしていた。


「なら精進あるのみだ。この手の鍛造は打ち込みが重要。何度も鉄を打ち、硬度を高めていかねばならん。できるな?」


「はい、師匠! 俺は絶対にやり遂げます!」


 俺の意気込みに皆が拍手をしてくれる。どうしてか客であったクライスさんまで。


「いつか一緒に冒険できたらいいな? 君が登り詰めてくることを期待している」


 言ってクライスさんは大剣を手に取り、工房をあとにした。


 器がデケぇよ。駆け出しの冒険者相手にも敬意を払ってくれるなんて。


 きっとクライスさんみたいな人が英雄になるのだろうな。


 俺は去りゆく彼の背中にそんなことを考えていた。

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