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第36話 齟齬を来す会話

 グレイス侯爵家の別邸をあとにした俺とエレナ。二人して帰りの馬車で溜め息を吐いている。


「エレナ……?」


 落胆した様子のエレナを見ると、本当に俺と結ばれることを望んでいたのかもしれない。


「リオ、どうして断らなかったの?」


 弱々しい返答は回答を求めていたのだろうが、恐らくエレナも分かって聞いたことだろう。


「侯爵様の命令だぞ? 男爵家の五男坊でしかない俺が意見できるはずもないだろう?」


 実際には命令と違ったけれど、侯爵様が口にした時点で決定事項なのだ。


 リズという娘さんも一任していたというし、彼女を救った俺が婿として迎えられるのは決まっていたのだと感じる。


「エレナの方が意見できただろ? 俺は侯爵様を怒らせるわけにはならない。男爵家なんて一瞬で廃爵に追い込まれてしまう」


「私だって無理。うちはグレイス侯爵家の寄子なのよ? もしも怒らせたりしたら、私は実家に帰らなきゃいけない。お父様は確実に連れ戻すはずよ」


 ま、確かに。

 娘の道楽に目を瞑っている伯爵様であっても、それは害がない場合のみ。実害が出てしまえば、口を挟んでくるだろう。


「それに私にはまだ(野外での変態なプレイなんて)早かった。何も知らないのに、段階を飛ばし過ぎたの。きっと、あの感情は思い過ごしよ」


 エレナは俺との関係を思い過ごしだという。

 これは流石にショックだった。さっきまで意思疎通が図れていたと思うのに、気のせいだったなんて。


「エレナはそれで良いのか? (俺との交際を)諦めるのか?」


「諦めるも何もリオが望んだことじゃないの? 私には英雄の妻になるという夢がある。まだリオは英雄じゃないし、該当していないわ。よって、勢いに任せて済ませるべきじゃないの」


 心が痛む。エレナの夢に俺は該当していないらしい。英雄ではない俺は彼女の夫として相応しくないみたいだ。


「そっか……。こんなことなら、レインボーホーンラビットなんか狩らなきゃ良かった」


 そもそも依頼を達成できなくても、手付金の金貨五十枚は手に入ったんだ。真剣に挑まなくても、お金だけは手に入ったはず。


「リオ、リズ様はとても美しい女性よ。幸せになってね?」


 本当にこれが縁の切れ目なのかもしれない。

 幸せを願う言葉は、まるで別れの言葉。俺の心に浸透し、鈍い痛みを伴っていた。


「俺はまだ諦めたくない……」


 ここでエレナと別れてしまえば、もう接点は失われてしまう。

 だけど、俺が惚れたのは彼女であり、侯爵令嬢でもギルドのアイドルでもない。


「リオはそんなに私(の身体)が欲しいの? どこにでも(これくらいのスタイルなら)いると思うけど?」


「いや、駄目だ。君の全てが欲しい……」


 俺は本心をぶつけていた。

 俺とエレナはきっと上手くいく。分かり合えるはずなんだと。だからこそ、俺は彼女の返答に期待するしかない。


「そんなに? 私だって(大人の関係に)興味があるけれど、侯爵様に逆らってまで……」


「逆らおうぜ? それにリズって子に俺が嫌われたら済む話だろ? なあエレナ、俺は君を泣かせたりしないから……」


 ここは押せ押せでいくしかねぇ。

 エレナはきっと揺れ動いている。リズって子に嫌われたのなら、流石に侯爵様も考え直すはずなんだ。


 長い息を吐いたあと、エレナは頷きを返していた。


「まあ分かった。そもそも私は了承していたし。リオなら私が(プレイによって)泣くことにはならないって分かっていたもの。どうせ嫁ぎ遅れているし、若いうちに(経験)するのも悪くないわ」


「本当か!? 俺は(仕事を)張り切ってやるからさ! 是非とも(交際を)お願いしたい!」


「ええ、了解よ。リオは依頼を遂げたし、約束してたんだもの。だけど、そんなに鼻息を荒らげなくても……。とにかく、心の準備ができたら言うから、待っていてくれない?」


 とまあ、俺はエレナと完全に意思疎通が図れていると考えていたんだ。


 俺は疑いなく、信じていたんだよ。


「俺は明日、改めて侯爵様に(エレナと交際することを)話してみる」


「そうね。流石に黙っているより、(妾として)認められた方がいい。リオが(街中での公開プレイとか)望んでいることを秘密裏に実現するのってやっぱ難しいわ」


 エレナも俺との交際は侯爵様ありきだと考えているようだ。


 だったら、会って話をするだけ。今日は薬師の手配やら忙しかっただろうけど、明日なれば問題ないと思う。


 過度に気後れしてしまうけれど、俺はエレナとの交際を認めてもらう為に再び侯爵邸を訪れなければならなかった。

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