表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/232

第32話 死闘の末

「かかってこいよ、豚野郎がっ!」


 武器はない。この状況で巨豚が逃げ去るはずもないんだ。

 だから、この作戦は必ず成功する。あとは俺がどれだけ戦えるかってだけ。


「きたっ!?」


 巨豚が前足を掻いて、突進を始めた。

 情報通りなのは有り難い。巨豚は真っ直ぐに進む攻撃しか持っておらず、俺はそれを利用するだけだぜ。


「今だぁっ!!」


 足が竦んではいけない。ここはギリギリで巨豚の突進を躱す。だが、僅かに身体をかすめていく。


「ぐぁああああぁあっ!」


 脇腹に激痛が走るけれど、俺は何とか直撃を回避できた。


 刹那に、強烈な衝突音が轟く。それは俺の狙い通り。巨豚が大木に激突したんだ。


「やったぜ……」


 破損率の高い牙はそれで折れるだろうと考えていた。だけど、激突を受けた大木はメシメシという音を響かせながら、牙を折ることなく倒れてしまう。


「マジかよ?」


 得意げに振り返る巨豚。

 あり得ねぇよ。まさか半分以上折れた牙で、何千年と生えているような大木をなぎ倒してしまうとか。


「あれ……?」


 何事もなかったかのように前足で土を掻く巨豚であったものの、俺の目には明らかに変化が見えていた。


 それは破損していた牙。ひび割れが目視でも分かったんだ。


「鑑定眼!」


 透かさず鑑定眼を使用。現状の破損率を確認すべきだと。



【破損率】98%



 やはり俺は幸運なのかもな。あと少し。それさえ分かれば、まだ踏ん張れるってものだぜ。


「かかってこいよォォッ!!」


 再び大きな声を出し、巨豚を煽る。あと2%であれば、大木じゃなくても折れてくれるはずと。


 早速と巨豚が突進を始めた。自慢の牙が折れる寸前であるとも知らずに。


「ここだぁぁっ!」


 間一髪で避けた俺は後方を振り向く。猪突猛進とはよく言ったもので、巨豚は勢いのままに樹木へと突き刺さっていた。


 周囲に轟く鈍い音。それは間違っても木々が倒されたものではない。今まさに、巨豚の左頬にある牙が折れたのだ。


「ざまぁみやがれ!!」


 痛む脇腹を押さえながら、俺は駆け出していた。


 牙こそが俺の武器になる。打撃職人というスキルを生かすのなら、拾った枝などではなく、牙で殴りつけるべきだろうと。


「重っ! ちくしょう!!」


 半分ほどの位置で折れていた牙なんだが、担ぎ上げると滅茶苦茶に重い。

 だけど、俺は打撃職人。細くなっている先を掴んでは、力の限りに振り下ろしていた。


「死ねぇぇえええっ!!」


 巨豚の脳天目がけて力一杯に。渾身の力を込めて、俺は叩き付けていた。


 牙が脳天にめり込む。何かが砕ける鈍い手応えが掌に残っている。だが、手を止めるべきではない。俺は尚も牙を振り上げ、同じ場所を狙って叩き付けた。


 今度は完全に頭部を破壊している。飛散する血飛沫に、俺はようやく勝利を確信していたんだ。


「勝てた……」


 ピクリとも動かなくなった巨豚を前に長い息を吐く。さりとて、俺はワイルダーピッグの討伐に来たのではない。


 もう既に充足感を覚えていたけれど、レインボーホーンという依頼の進捗率を考えると引き返すなんてできなかった。


「牙を手に入れたことだし、粘ってみるか……」


 この森には確実にレインボーホーンラビットが生息している。まだ遠くへ逃げていない可能性があるし、ここは根性を振り絞るだけだぜ。


 探索を再開しようとしたそのとき、背後の茂みが音を立てた。


 あれ? やっぱ俺って幸運なの?


 振り向いたそこには、逃げていったと思われる魔物が現れていたんだ。

 虹色に輝く角をした小さな魔物が。


「レインボーホーンラビット……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ