第030話 最悪の展開に
えっと、何だ?
どうして俺をそっちのけで話が進んでいるのだろう。正直に俺は依頼を受けられないと考えていたのに、侯爵様だけでなくエレナがめちゃくちゃ前向きなんだけど。
既に侯爵様とエレナは固い握手を交わしている。まるで彼女が俺の代理人であるかのように。
「リオ、貴殿には期待している。早急に取りかかってくれ。手付金は金貨で五十枚を用意した。好きに使ってくれ」
マジか。手付けだけで金貨五十枚とか、達成したらどうなっちゃうの?
「リオ、私からはこれを。残ってた鉱石で打ったから短剣だけどね?」
エレナもまた俺にプレゼントがあるようだ。
手渡された短剣。いつものように鞘の装飾だけは立派である。
「ありがとう。何とか頑張ってみるよ……」
「ええ、頑張って。(変態なプレイがしたいのなら)必ず生きて戻ること」
「そうだな。輝かしい未来が待っていると信じたい。俺自身が掴み取れるように」
そういや、俺は大槌を没収されたままだ。
ってことはエレナの短剣で戦うしかないのか?
(それだけはねぇな……)
支度金をもらったことだし、鈍器でも買ってから出発しよう。
「それでは侯爵様、失礼します。俺は準備をしてから狩りに向かいますので」
侯爵様からレインボーホーンラビットの発見情報マップを受け取り、俺とエレナは侯爵家をあとにしていく。
まあそれで、俺は高級な武具屋に寄って、鈍器を買おうとしてたわけだけど、どこまでもついてくるエレナに店を物色できないままであった。
「エレナ、俺はもう行くよ……」
武具屋を経営するエレナを連れて、他の武具屋に行くなんてできない。何しろ、俺は彼女が打った短剣を武器として手渡されているのだ。
「街門まで見送らせて。今回の件で、私はとても心配したから。せめて王都を出るまでは一緒にいたいの」
嬉しいけれど、そうじゃないんだよなぁ。
俺の身を心配してくれるなら、工房に帰って欲しいのだけど。
「平気だって。何も強大な魔物と戦うわけじゃないし」
「それでも心配するわ。高溶解炉が完成するまで暇だし、見送りくらいさせてよ」
これは詰んだ。俺の人生はここまでかもしれん。
エレナを連れて鈍器を買うのは不可能。街を出てから戻るのもリスクが高い。再びエレナと鉢合わせでもすれば、弁明できないのだから。
「じゃあ、祈っていてくれ。直ぐにレインボーホーンラビットが現れるようにと」
「うん、待ってるね。次に会ったとき、リオの世界が変わっていると信じてるから」
マジでヤバいことになった。エレナの短剣だけで森へと行くなんて自殺行為だ。同じ製法で作られているならば絶対に壊れる。
つまるところ、エレナが語るように俺の世界は一変するだろう。現世を離れ、天界に召されることで……。
まあそれで、俺はエレナに見送られながら、街門を出て行く。
俺に与えられた武器は小枝よりも脆い短剣のみ。街門の向こう側こそが地獄と呼ばれる場所に違いない。
「ま、条件は前回と同じだ……」
レインボーホーンラビットを狩ったのは木の棒なんだ。従って、道すがら適切な棒切れを探すべきだろうな。
「フレイムは使えないし……」
唯一、変化があるとすればフレイムという火属性魔法。しかし、一度使用するだけで魔力切れとなってしまう。更には森林火災を引き起こすのだ。そこで意識を失った俺は、こんがり肉になるだけだろう。
「女神様、どうか俺を助けてください……」
せめてエレナの短剣が折れませんように。何とか生きて戻れますように。
女神様に祈ったあと、俺は長い息を吐いた。
神頼みしか手がないなんて最悪だぜ。




