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第029話 それぞれの思惑

 私たちを乗せた馬車は上位貴族の別宅が建ち並ぶエリアへと来ていました。


 一際大きなお屋敷がグレイス侯爵家の別邸です。


「リオ、到着したわ。さっきの話は終わりよ。絶対に侯爵様の依頼を受けるのよ?」


「分かってるって。でも依頼を達成できるかどうかは分からんけど」


 もう、だらしないわね?

 男なら余裕だと口にするべきよ。試すよりも前に怖じ気付くなんて駄目だわ。


 執事に連れられ、私たちは侯爵様が待つ部屋へと。

 部屋に入るや、私は深いカーテシーをして、端的に用件を述べる。


「侯爵様、リオを連れて参りました……」


 リオってばガチガチに緊張しているけど、大丈夫かしら?

 まあ男爵家の五男坊が上位貴族に会う機会なんてないから仕方ないかもね。


「リリリ、リぉっ……すみましぇん!」


 リリリリって虫じゃないんだから、ちゃんと挨拶しなさいって。


「スノーウッド家の五男、リオですぅ!!」


「ああ、すまないね。まさか投獄されているなんて思いもしなかったよ」


 それは私もだわ。まさか数日会わない間に死刑囚になってるなんてね。


「ここ、こちらこそ、ありがとうございました。侯爵様に助けていただかないと、今頃は断頭台の上でしたね……」


「明らかな冤罪だ。礼には及ばん。街門の外で魔法の練習をしていただけだというのに、有無を言わさず捕らえるとか考えられん。まあ、少しばかり王都に近すぎたな?」


 侯爵様は乾いた声で笑っている。


 私も気になって現場を見たけれど、リオが魔法の練習をしていた場所は雑草一本残っていなかったわ。


「あの広大な草原を焼き尽くすまで、何度ファイアーを唱えたというのだ?」


 それよそれ。ファイアーで視界一杯の焼け野原を生み出すなんて一万回でも無理じゃないかしら。


「いえ、俺はフレイムを唱えただけです」


「「フフ、フレイム!?」」


 いけない。思わず侯爵様とハモってしまった。不敬にならないかしらね?


「覚えたばかりのフレイムを一度唱えただけです。予想以上の威力が出てしまって、あのようなことに……」


「むぅ、ギルドでは駆け出しの冒険者だと聞いたが、稀に見る猛者ではないか。まさかフレイムの使い手だとは……」


「ああいえ、本当に駆け出しなんです。ギルドの依頼ではスライムとレインボーホーンラビットしか狩った経験がありません」


 ここは聞いたままです。だけど、リオの話が真実だとすれば、リオは魔法剣士ってことになる。


 やだ……。ソレってめちゃくちゃ格好いいじゃないの。


 魔法剣士だなんて、ほぼ英雄みたいなものでしょ?


「まことか? いや、十年ぶりにレインボーホーンラビットを狩ったのだ。貴殿は類い希なる強者なのだろうな」


 その通りですわ、侯爵様。どうかリオが一代貴族の伯爵位くらい授爵できるように取り計らってくださいまし。


「それで儂がレインボーホーンを求める理由だが、我が娘リズは急に病状が悪化して一ヶ月も生きられないと診断されてしもうたのだ。大金を叩いて雇った勇者一行は何の成果も残せぬまま依頼を打ち切るし、もうレインボーホーンを手に入れる手立てがないと考えておったのだ」


 ここで語られるのはリオを呼び寄せた理由でした。


 やはり問題となっているのはリズ様のこと。久しくお会いしておりませんでしたが、彼女の病状は回復していなかったようです。


「しかし、ふと市場にレインボーホーンが出たという話を聞いた。まさに起死回生といえる情報。だが、それは既に買い手が付いており、幾ら金を積もうとも手に入らなかった。同じような境遇の人間が手放すはずもなかったのだ」


 十年ぶりという出物でしたが、残念ながらお金ではどうしようもできなかったみたい。


「だから、君を呼んだ。もう一度、レインボーホーンラビットを狩ってくれないか? 儂が持っている発見情報は全て開示する」


 予想したままの展開です。十年ぶりにレインボーホーンラビットを狩ったリオに侯爵様は依頼を出していました。


「侯爵様、俺は狩りが得意ではありませんし、レインボーホーンラビットは弱者にしか襲いかかってきません。当時、俺は本当に駆け出しの冒険者でして、レインボーホーンラビットに襲われるほど弱かったのです」


 あらあら、リオってば謙遜しちゃって。


 電光石火の一撃でレインボーホーンラビットを一刀両断したって私には分かっているんだから。何しろ、あのドラゴンバスターは最高傑作だったからね。


「もはや、君にしか頼めない。期待はするけれど、依頼を達成できなくとも責任は問わん。どうか受けてくれないか?」


「侯爵様、先に報酬をリオに提示してください。彼は男爵家の五男でしかないのです。達成時には是非とも優遇してあげて欲しいと存じます」


 無礼にも私は意見していました。


 アブノーマルな婚前交渉を受けるにあたり、ネックとなるのはリオの身分だけだもの。

 もしも妊娠してしまえば、お父様に紹介しなきゃいけない。だったら、それなりの地位を得ていないと、お父様は激怒するだけだからね。


「ああ、聞いている。五男坊とは難儀だったな。まあ儂は依頼を達成してくれるのなら、それなりの報酬を考えておる。無下には扱わんので安心するが良い」


「本当ですか!? リオは(最低でも子爵位くらいに)成り上がれるのでしょうか!?」


「どのような社交界に出ても堂々とできる身分を保障しよう。準備は滞りなく済ませておく」


 やったわ。

 侯爵様の言質が取れたのなら、リオは確実に成り上がることができる。


 私も準備しておかなきゃ。リオが望む変態なプレイについて、モニカに詳しく聞いておかないと。いざというとき失敗しないように。


「侯爵様、私たち全員が大勝利間違いなしですね?」


「ふはは、その通りだ。伯爵には礼を言っておくぞ」


 成人してから、王都に来て良かったわ。

 伯爵家って微妙すぎる立ち位置なのよ。上位貴族として中途半端だし、私は良い縁談に恵まれなかった。


 だけど、私は自分で将来を切り開けたのよ。


 少しばかり変態だけど、魔法剣士というほぼ英雄みたいな彼氏が私にもできるのだから。

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