第024話 断頭台へ
「テロリストは処刑されるだけだ」
え? 今、なんてった?
俺ってテロリストだと考えられてんの?
世を乱すのはお前たちだろうがよ?
「いや、馬鹿言わないでくれ。俺はこれでも全うに生きている。悪党共と一緒にすんじゃねぇよ」
「笑わせてくれる。お前は強大な魔法で王都セントリーフを焼き払おうとしていたじゃないか? 通報があって駆け付けた兵たちは広範囲に燃え広がる炎を見たと話していたぞ?」
ゴクリと唾を呑み込む。
えっと、あれか……。
まるで反論できねぇよ。思い当たる節がありすぎだって。
「俺は断じてテロリストじゃない! 魔法の練習をしていただけなんだ!」
「うるさい! もう刑は確定している。明日、王都の広場にて公開処刑されるのだ」
えええ……。
マジなの?
俺はフレイムの熟練度を上げようとしていただけなのに。どうしてか俺は捕まって、死刑囚になってしまったらしい。
「今までの過ちを全て、女神様に懺悔でもしていろ。それこそ来世に期待をして……」
言って衛兵は去って行く。
何てことだろう。俺は弁明すらさせてもらえず、ただ処刑されるという。
僧侶であるというのに鍛冶職人を目指した結果、俺は死ぬことになった。
「最悪じゃん……」
俺は嘆息していた。
もう死ぬだけなのか? 男爵家を追い出されて一ヶ月もしないうちに死刑だって?
最大にして唯一の心残りを俺は口ずさんでいた。
「エレナ……」
◇ ◇ ◇
一応は死刑囚にも食事が与えられている。この辺りは人道的だと言えなくもない。
本日はもう処刑される日だ。死ぬほど固いパンが最後の食事になるのかもしれない。
「王都に来て、僅か一ヶ月も生きられないとは……」
儚い人生だったぜ。
思えばファイアードラゴンに惨殺されていた方が、ずっとマシだったかもしれん。
犯罪者として処刑されてしまえば、父上にも迷惑をかけるだろうし、死体も晒されるだろう。俺にとってメリットは何もなかった。
「もう一度、エレナに会いたいな。彼女は俺の亡骸を見て泣いてくれるだろうか?」
せめてエレナが広場に来ていることを願う。人生で初めて好きになったあの子が看取ってくれたならと。
考えるほどに溜め息が漏れてしまう。
もう俺の人生は終わりなんだ。幾ら女神に愛されていたとして、死んでしまっては意味がない。
「サラマンダーの奴は俺が幸運だと言ってたのに」
どこが幸運なんだよ?
テロリストと勘違いされたまま処刑される人生のどこが幸運だってんだ?
「何だか腹が立ってきた……」
ちくしょうめ。
幸運の証明がスキル獲得だけとか、絶対に信じられん。こんな状況に陥るところを考えると、絶対に幸運じゃなくて不幸だろ?
パンを食べ割った頃、地下牢へと繋がる扉が開く音がした。
いよいよ、俺は処刑されるのかもしれない。このあとは断頭台に向かうのだろうな。
「やべぇ。おしっこ漏らさないようにしないと……」
せめて格好良く逝きたい。恐ろしく感じるけれど、人生のクライマックスなんだ。
俺は最後に声を上げ、無実を訴えてやる。それでも処刑されるだろうが、胸を張って天へと還るために、事実だけは口にしておきたい。
「よっしゃ、覚悟は決まった」
少しずつ近付いてくる足音。またそれは確実に複数人であった。
食事の配膳は一人であったから、まず確実に処刑台へと連行する衛兵に違いない。
心を強く持ってそのときを待つ。しかし、現れた人間に俺は息を呑むしかなかった。
「エレナ……?」
どうしてか牢獄へとやって来たのはエレナであった。
まるで俺の願いを女神様が叶えてくれたかのよう。俺は最後に会いたいと願っていたのだから。
きっと俺の周囲が大騒ぎしているんだ。冒険者ギルドだけでなく、ドルース師匠たちも。
だからこそ、エレナは騒ぎを聞きつけ、遂には伯爵令嬢という身分を使って会いに来てくれたのだ。
「最後に会いに来てくれたのか……?」
「リオ、何を言ってるの?」
あれ?
ムッとした表情でそう返すエレナを見る限り、別れの挨拶に来たとは思えない。
じゃあ、俺を嘲笑いに来たってのか?
俺は呆然と顔を振っていた。最後に会いたいと願っていたけれど、こんな形なら会いたくなかった。綺麗な思い出のまま俺は旅立ちたかったというのに。
ところが、俺は唖然とさせられている。
彼女が続けたその言葉に。
「釈放よ。早く出なさい……」




