最終話 幸せを
「リオ・ウェイル、貴方はエレナ・メイフィールドを生涯の伴侶とすることを女神様に誓いますか?」
早速だが、俺とエレナの結婚式が始まっていた。
花嫁の入場ではメイフィールド伯爵がドン引きするくらい泣いていたけれど、そのせいか肝心のエレナはまだ平然としている感じだ。
(何とか泣かせてみたいな……)
俺はこの式の目標として、エレナを感動させようと思った。
やはり嬉しいを通り越した嬉し泣きってのは最大級の感情だろう?
思い出に残る式として、エレナには未来永劫覚えていてもらいたい。
「誓います!」
教皇様を待たせてはなんなので、ここは普通に返事をする。
彼女への愛以外にも、絶対に泣かせてみせると心に誓っていた。
「エレナ・メイフィールド、貴方はリオ・ウェイルを生涯の伴侶とすることを女神様に誓いますか?」
「誓います」
ちくしょう、やっぱ既に子を成してしまったのは間違いだったのか?
エレナにとって俺の嫁となることは決定事項であり、感動する意味合いも持たないのかもしれない。
「では、指輪交換のあと、誓いのキスを……」
ここが見せ場だ。
バッチリメイクのエレナには悪いけど、全世界に中継されているこの結婚式で号泣してもらうぜ?
指輪を交換したあと、俺はエレナのヴェールをそっとまくり上げた。
やはり彼女は涙していない。だが、その余裕もここまでだぜ。
覚悟しやがれ、エレナ!
「エレナ、俺は君が焼いたパンを食べたい……」
「はぁ? メイドに焼いてもらえばいいじゃん?」
ガガーーーン!! 嘘だろ?
南部では鉄板の感動プロポーズなのに。
新婦は感動して「はい、喜んで」と涙ながらに返すものだろう?
それが北部では通じないってか!?
「すまん。俺は君と一緒の墓に入りたい」
「今から結婚するのに、それはなくない?」
ううう、嘘だ……。
この文言は女性が選ぶ嬉しいプロポーズの第二位だってのに。
南部の常識がこれほどまでに通用しないなんて北部恐るべし。
俺はここにきてエレナとのギャップを感じ始めていた。
「そんなことよりリオ、やっと一緒になれるね? 私は本当に嬉しいのよ」
愕然としていた俺にエレナ。その言葉は俺の心にゆっくりと染みこんでいく。
溜まりきった涙を放出するに充分な感動を伴いながら。
「おお、俺も幸せだぁぁっ! 俺は世界一幸せな男なんだぁぁっ!」
気付けば、俺は号泣しながらエレナに返していた。
先に涙するなんて格好悪いけれど、俺は我慢なんてできない。
ずっと片思いだと思っていた人に嬉しいって言われたから。
何よりも手に入れたかった人に選ばれたんだ。
「俺より果報者は世界広しと一人もいねぇよ! 俺は世界で一番エレナを愛している!」
どうしてか大声を張っていた。
この醜態は世界中に中継されているというのにもかかわらず。
幾らでも溢れてくる涙を拭ってエレナを見ると、なぜか彼女も涙を零していたんだ。
俺の涙につられてしまったのか、エレナの頬を幾つも涙が滑り落ちていく。
「嬉しいよ、リオ。私だけの英雄に世界で一番だなんて言われたらさ……」
奇しくも二人して号泣してしまう。
まあ、なんだ。
全然、締まらない式となってしまったけど、観覧席からは手拍子が送られていた。
それがキスを急かすものだと直ぐに分かった。
教皇様を差し置いて、会話を続けた俺たちの口づけを観覧者たちは望んでいる。
「エレナ、幸せになろう!」
「もう充分、幸せだけどね?」
小さく笑い合ったあと、俺とエレナは口づけを交わした。
それはもう熱烈に。生まれてくる子供が増えてしまうんじゃないかと思えるほど、長く熱いキスだったんだ。
刹那に手拍子は万雷の拍手へと変わっている。
祝福されていた。
面白がる声もあったと思うけど、皆が俺たちの門出を祝ってくれたんだ。
「エレナ!!」
俺は花嫁を抱きかかえて、観衆に見せつけている。
一目惚れから始まった俺の成果を見せつけるように。
ハニートラップに引っかかった俺の末路はこんなにも幸せなのだと。
人生が一変した出会い。
女性で失敗する人は多々いるだろうけど、俺に限っては感情に従って正解だった。
寧ろ、現状以外の全てが間違った選択であった可能性は高い。
なぜかって?
いやいや、理由付けに講釈垂れる必要はねぇし。
俺はシンプルに思うんだ。
今以上の幸せはない――って。
END
約半年でしょうか。
毎日欠かさず連載した本作もこれで完結です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
感謝感激でございます!
またお会いしましょう!!(>_<)/




