第229話 最後の力を
「かかってきやがれぇええ!!」
目一杯の魔力を練ってから、俺は魔法陣を展開していた。
通常よりも厚い盾。魔法威力よりも大きな広域シールド。俺はそれを目指している。
絶対に全てを守り切ってやるんだ。俺は完全勝利しか狙ってないんだよ。
俺だけが生き残るなんて、絶対に負けだ。
そんなことになるくらいなら、俺が先んじて死んでやるからな。
「レイシールドォォッ!!」
街全体を覆う光の壁。あり得ない魔力が持っていかれるけれど、俺は耐え凌ぐだけだ。
手持ちの魔力ポーションは幾らでもある。先にぶっ倒れるのがどちらなのか、耐久戦としゃれこもうぜ!
「うおおおおぉぉおおおお!!」
瞬時に放たれる黒い光線。俺は受け止めていた。
記憶にあるのは助かったぜ。恐らくこの攻撃は二十秒ほど続くはず。
片手でポーションを飲む。
魔法陣はまだ顕在だ。俺が魔力を流し続ける限り、それは絶対に維持されるんだ!
「ぐあああぁああああぁああ!!」
どちゃくそ長ぇよ。二十秒ってこんなにも長かったのか?
飲み干すたびに頭がクラクラする。五秒に一本消費しないことにはレイシールドが維持できない。
「クソッタレがぁぁっ!!」
『リオ、もう少しだ!』
ここでイヴァニスが声をかけてくれた。
もう俺への介入をやめている。それどころかレイシールドに光の加護を与えてくれたんだ。
すまねぇな。協力させちまって。勝算の薄い無謀な計画に付き合わせてしまってな。
だけど、その恩義には必ず報いる。
なぜなら、俺は勇者だから──。
「いくぞォォオオオッッ!!」
ここが山場だった。
記憶によると、このあと少しばかりの時間、魔王は硬直していたんだ。
その隙を突く。暗黒素が集中しているという首下へ、最高の一撃をお見舞いしてやるよ。
「飛べえええ! ワイバーン!!」
再び飛び乗ったワイバーンを駆る。真っ直ぐ淀みなく突き進み、俺は使命を遂げるだけ。
英雄リオ・ウェイルの物語はここでクライマックスを迎えるんだ。
「死ねえええぇええええ!!!」
全魔力を注ぐようにしていた俺の剣は輝きを発していた。
圧縮魔力はレイシールド用であったものの、それが乗り移ったのか聖剣に魔力が帯びていたんだ。
刀身の十倍にも伸びた光の刃が黒竜の喉元へと突き刺さっていく。
「だらああぁああああ゛あ゛あ゛!!!」
無我夢中だった。
俺の使命は喉元を斬り裂くこと。それだけだと思っていた。
しかし、俺が繰り出した一撃は黒竜の喉元に風穴を空けていたんだ。
「イヴァニス!!」
咄嗟にイヴァニスへ声をかける。
俺の仕事が終わったんだ。あとはイヴァニスが俺の身体を操って、黒竜にトドメを刺すだけだと。
ところが、異なる指示が飛ぶ。
『リオ、セレスティアブレスを放て! 黒竜が爆散するぞ!!』
「何だって!?」
わけ分からん。
とりあえず、俺は魔力ポーションを飲み干すけれど、さっさとトドメを刺してくれないかと焦ってしまう。
「おい、黒竜にトドメを刺せ!」
『いや、僕の出番はないって分からない!? 君は自力でルミエールソードを発動してしまったんだよ!』
えええ!?
今の攻撃がそれだっての!?
いや、俺が黒竜を倒したのか!?
『シールドを維持しながら、天に向かってセレスティアブレスを放て! 全力で撃ち放ってくれ!』
戸惑っている暇はねぇってか。
倒したというのなら、嬉しい誤算。後処理までが英雄の仕事だし。
「セレスティアブレス!!」
これまた魔力消費が激しいんだ。
しかもレイシールドを維持しながら撃ち放つなんてさ。まるで想定していなかったけど、やるっきゃねぇ!
「うおおおおおおおお!!」
全魔力を持ってけ。
もう昏倒したって知ったこっちゃねぇよ。
俺は世界を救う。
それだけの事実で安眠させてもらうぜ。
刹那に強大な爆発が眼前で起きた。
しかし、最強の攻撃とやらをも防いだ光の盾がある。
かつて勇者とイヴァニスを屠ったという自爆攻撃は既に対策済みなんだよ。
「クソッ……」
セレスティアブレスへの魔力が足りない。
だけど、補充している時間はなかった。俺は腹の底からでも魔力を絞り出すしかない。
「放てぇええええっ!!」
一瞬のあと、天へと光の柱が伸びていった。
ようやくだぜ……。
これで俺の使命は完遂となった。
意識が薄れていく。
周囲に飛散する神聖なる光の粒。それは俺を癒しながら、眠りへと誘っていった。
ゆっくりとワイバーンの背に身体を預ける。
あとは上手く着地してくれ。
俺はもう操舵できないからな。
頼んだぞ……。




