第228話 最大攻撃
俺はワイバーンを下ろし、ガラムたちと合流していた。
エレナもまた剣を抜き、攻め入る姿勢を見せている。
「リオ、よくぞ戻った。頼めるか?」
「あたぼうよ。そのために俺は帰ってきたんだ」
落下した黒竜に兵たちが総攻撃をかけている。だが、悠長にしている時間はない。
一般兵の剣が届く魔物じゃないはず。だからこそ、俺たちが相手をするべきだ。
「リオ様、援護させてください!」
「エマ、疲れてるなら構わないぞ?」
「平気です! アタックエイド!!」
エマが攻撃力増加の魔法をかけてくれる。
仮にも聖女の支援魔法だ。ちゃちなバフとは異なるだろう。
「エレナ、行くぞ!」
「分かった!」
俺とエレナは駆け出していく。
インフェルノを受けてもまだ暴れ回る黒竜に向かって。
『リオ、首の根元。そこに暗黒素が集中している』
「了解……」
イヴァニスが助言をくれたけれど、難しい話をしてんじゃないって。
要は最終的に斬り刻んでやれば良いのだろ?
一撃必殺を狙う必要はない。
「おらぁあああ!!」
早速と斬りかかると、直ぐさまエレナが追撃を加えた。
確実に効いている。悲痛な声を上げる黒竜に俺たちの剣は届いていた。
『リオ、最後は僕に任せてくれ。君が黒竜の胸元を斬り裂いたあと、僕がトドメを刺す』
「マジ? ちゃんと身体は返してくれよな?」
『もちろん、僕と君は死ぬまで一緒さ。だから悪いようにはしない』
しれっと恐ろしいことを聞いた気がする。
マジで融合しちゃったのか。俺は抗ったはずだけど、受け入れてもいたからな。
『それでそのあとのこと。僕は過去を悔やんでいる。魔王の残滓を世界に残してはならない。僕がトドメを刺したあと、君はセレスティアブレスを放ってくれ。再び飛び散る暗黒素をそれで浄化する』
続けられたのは今後の対策について。
過去に魔王が発した残滓。それが黒竜の発生原因であった。よってイヴァニスは暗黒素が飛散することを防ぎたいのだという。
「いけるのか?」
「問題ない。既に君のセレスティアブレスに関しては検証済みなんでね」
世界の使徒たる大精霊は、やはり神に近い存在なのかもしれない。
一度見ただけであるというのに、イヴァニスは断言していた。
「ま、最後のときだな!」
俺は尚も斬りかかる。濛々と黒い煙を吐きながら、修復されていく黒竜の翼めがけて。
「二度と飛べねぇようにしてやるよ!」
思い切り斬り裂いてみたけれど、エレナの攻撃と大差はない。
「エレナ、俺はワイバーンに乗る! 君は兵の護衛を頼む!」
「分かった! 気を付けてね!?」
物分かりの良い婚約者は助かるな。
ぶっちゃけ俺は特攻を仕掛けようとしていたのだけど、分かった上で俺を送り出してくれるなんて。
「リオ、援護するのじゃ!」
「助かる!」
俺がワイバーンに跨がったそのとき、黒竜が大きく咆吼した。
大地を引き裂くかのようなそれに一般兵は固まって、ワイバーンもまた硬直してしまう。
『リオ、黒竜最大の攻撃が来る!』
「何だって!?」
過去の記憶。問いを返した俺であったが、脳裏にイヴァニスの記憶が流れ出していた。
絶叫したあと、魔王は大地を二つに割るような漆黒の光線を発していたんだ。
それは進路にあった全てを無に変え、蒸発させるように消去する魔法だった。
『君だけは逃げろ。絶対に防御できない』
淡々と言うんじゃねぇよ。
俺が飛び去ったとしたら、エレナはどうなる?
仮に世界が救えたとして、俺はエレナのいない世界なら必要ない。俺にとってエレナあっての世界なんだから。
「しゃらくせぇえええ! 受けてやるよ!」
『止めろ! 強制介入するぞ!?』
「やれるもんならやってみやがれってんだ!!」
身体が思うように動かない。流石は同質化しただけあるな。
だけどな、俺も半分所有してんだよ。残念だけど、俺は簡単に蹂躙できねぇぞ!
「クソがああああ!!」
ワイバーンから飛び降りて、魔力を練る。
ありったけだ。
全ての魔力を放出して、俺は黒竜の攻撃に打ち勝ってやる。
祭りの花火を上げるなら、俺はそれを受けて立つだけだ。
攻撃を仕掛けようとする黒竜だけでなく、尚も身体に介入するイヴァニスに対しても。
「かかってきやがれぇえええっ!!」




