第227話 予感
俺は目一杯にワイバーンを急がせていた。
何しろ、黒竜がラズベルの街を襲っていたからだ。
『リオ、正面から突っ込んで。まずは防御からだ』
俺はイヴァニスと身体を共有していた。
乗っ取ろうとする力に抗えたんだ。
意識を残したまま、俺はイヴァニスの力を手に入れている。
「アレ、やべぇんじゃね?」
視界に映ったのは黒竜が巨大な爪で攻撃している場面。光の壁は恐らくエマが張ったものだろう。
女神に選ばれしジョブ聖女はラズベルの街を守ってくれたんだ。しかし、それも風前の灯火。光の壁は今にも突破されそうな様相を呈している。
「エマァァアアアアッ!!」
俺たちが戻ったこと。それを伝えねばならない。
諦めるよりも前に、希望があることを知ってもらわないと。
「レイシールド!!」
俺は即座に光の盾を広範囲に展開し、エマの障壁へと重ねている。
聖剣の鍛錬にて熟練度を上げたんだ。広範囲に展開するくらいわけないっての。
「リオ、近付いて! 翅を斬り落としてみる!」
えっと、エレナさん本気ですか?
貴方の実力は良く知っていますけど、黒竜の翅を斬り落とすなんて可能なの?
『リオ、接近しよう。魔王戦も翅を無効化して戦った。エレナは間違ってない』
「いや、エレナの剣は通らねぇだろ!?」
『問題ないよ。エレナは僕と接触しているからね。翅くらいなら斬り裂けるはずさ』
厳密にいうと俺と密着しているんだ。
ま、それは俺とイヴァニスが本当に融合したという結果なんだろうけど。
「じゃあ、行くぞ!!」
俺としてもワイバーンを操舵しながらだと戦いにくい。名人級ではあったけれど、世界を滅ぼす災禍と闘っているんだ。隙を見せることなく戦うっきゃねぇよ。
「斬れろぉぉっ!!」
勇敢な我が婚約者は有言実行としてしまう。
エレナは本当に黒竜の翅を斬り裂いていたんだ。
「剣聖やべぇな……」
「リオも追撃を!」
翅の隙間から後方へと回っている。
エレナはこの隙に追撃を加えろという。
「レイシールド展開!」
俺の魔法は強力すぎる。一発で街が吹き飛んでしまうからな。
黒竜をレイシールドで取り囲み、俺は強大な魔法を撃ち放つだけだぜ。
「インフェルノォォオオオ!!」
イヴァニス曰く、鱗以外の部分であれば光属性を得た俺の攻撃が通るって話だ。
レイシールドに囲われた中。記憶にあるがままの大爆発を起こしている。
俺は魔力ポーションを飲みつつ、その様子を眺めていた。
『リオ、黒竜が落下するぞ! 畳み掛けろ!』
イヴァニスがいち早く状況を察知している。
鑑定眼のおかげなのか、彼は翅の損傷を疑っていない。
「いや、ガラムたちと合流する。俺は全員を守りたい」
『まったく、欲どしい話だね? まあ良いけど。しばらく黒竜が飛ぶことはない。回復力が魔王並なら五分とかからないだろうけど』
嫌な情報を聞かせんなって。
まあでも、許可を得た。
俺はラズベルの街を守った兵たちに感謝をし、先陣に立ってくれたエマとガラムを慰労しなきゃな。
「何てか無双できそうじゃん?」
俄に自信が沸き立っていた。
俺はリオ・ウェイルとして英雄になる。
そんな気がしたんだ──。




