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第221話 迫り来る闇

「リオ、貴方に色々と背負わせてしまいました。申し訳ありません」


 女神エルシリア様が言った。


 いや、それについては何の問題もない。


 エレナも既に納得した様子だし、俺に関しては達観したともいえる。


「俺は救国の英雄になります」


 かつて存在した勇者とは異なり、此度の物語は真実を残してもらいたい。


 リオ・ウェイルという英雄の活躍を余すことなく伝えて欲しいと願う。


「それだけです。俺が期待する未来は……」


 スノーウッド男爵家を追い出され、王都に流れ着いた。


 そこでエレナと出会い、彼女のために邁進した日々。冒険者となり鍛冶職人となった人生に悔いがあるはずもなかった。


 俺は自身の願望通りに、エレナと結ばれ死んでいくんだ。


「聖剣イヴァニス、リオを最後までよろしく願います」


「エルシリア、僕は君の要請に応える義務はない。ただ世界のために動くだけさ。しかし、リオのことは気に入っている。悪いようにはしないよ」


「我が使徒たちよ、世界は再び存亡の機に立たされております。勇者を配置し、聖剣を修復したとして油断してはなりません。全員が一致団結し、アヴァロニア世界の未来を紡いでいくのですよ?」


 言ってエルシリア様は消えゆく。


 俺たちはこのあと聖王国にて一泊し、明日の朝に南部へと向かうつもりだ。


 既に黒竜が破壊活動を再開したらしい。


 きっと穏やかに過ごす最後の夜となるだろう。


 俺は英雄としての死を既に受け入れているのだから。



 ◇ ◇ ◇



 アルカネスト王国ウェイル辺境伯領ラズベル。


 大陸の南端で再び黒竜が暴れ出したことは既に伝わっていた。しかしながら、人々は逃げ回ることなく、比較的落ち着いているようだ。


 なぜならヴァルノス帝国が一週間も要せずに滅びたと知っていたから。既に住民たちは女神に祈ることくらいしかできなかったのだ。


「ガラム様!」


 聖堂へ入るための行列に対処していたエマが大きな声を張る。


 その声には不安そうな住民たちも一様に笑顔を戻していた。


「遅くなったのじゃ! リオはまだ戻らぬのか?」


 ワイバーンが一騎、聖堂前へと降り立つ。


 現れたのは辺境伯。当地の領主であるガラム・ウェイルである。


「それがまだ……。アレスタ山脈の様子を確認するだけだったのですが、空を焼くほどの爆発が起きまして」


「むぅ、黒竜は南端にいるはずじゃがの?」


「いやでも、本当なんです! ここからでも東の空が真紅に染まる様子が見て取れました」


 エマは真実を口にしている。


 まるで山が噴火したかのような輝きと揺れをラズベルでも感じたのだ。


 黒竜騒ぎがあった後であったから、住民たちは不安を覚えたという。


「むぅ、何らかの事故に巻き込まれたか。或いは……」


 ガラムは明言を止めた。


 ここには住民たちがいる。不安を煽るような言葉を口にするべきではないと。


「エマよ、もしも黒竜が襲い来るのなら、お主は何ができる?」


 思わぬ問いにエマは口籠もる。


 自身は聖女であり、アタッカーではない。よって災厄が襲ってきたとして対処法など持っていなかった。


「あたしは戦闘系ではないです。回復ならお任せください。その他はセントウォールという結界が張れます。黒竜に効果があるのか分かりませんけれど」


 勇敢にも自身の能力をエマは並べていた。


 逃げ隠れるという選択肢も彼女にはあったというのに。


「頼めるか? ワシが何とか追い払って見せる。それまでラズベルの守護を頼むのじゃ」


「承知しました。リオ様が戻られるまで耐え凌ぎましょう」


 二人は一定の未来を予感していたけれど、希望は捨てていないようだ。


 アヴァロニア世界を照らす輝き。


 彼が放つ光によって闇は消え去るだろうと。


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