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第218話 約束の地

 再び俺たちは空の旅へと。


 ハッピーは相変わらずオッパイ丸出しであったけれど、エレナでさえパンツを穿いていない状況だ。気にする必要はない……はずだよね?


「ちょ、ハッピー苦しいって!」


 例によってエレナが前だ。


 以前とは異なり、エレナはハッピーの胸に顔を埋めるように抱えられている。


 巨乳に溺れるその様は羨ましくも感じるけれど、それを口にすると俺の命がエレナによって狙われる。よって、ここは見ないフリだ。


 何日飛び続けただろう。


 遠くに大聖堂らしきものが見えてきた。

 破壊され尽くしたプロメスタ聖王国に俺は戻って来たんだ。


「ご主人様、長旅お疲れさまでしたわ」


「お前は毛布を巻くんだぞ? 聖職者たちが一様に性職者になっちまうからな?」


「うふふ、承知しましたの。この胸はご主人様だけのために……」


「天使らしくしろって言ってんの!」


 過度にハーピー成分を残したエンジェル。経緯を知るのは俺たちだけなので、僧兵たちが天使を誤解しないかと不安を覚えてしまう。


 ま、俺を勇者にしたのもハーピーを天使にしたのも、エルシリア様のお考えなのだけど。


 大聖堂前に降り立つと、僧兵たちが土下座し始める。瞬く間に周囲にいた全員が俺たちにひれ伏していた。


「マジか。天使の後光もあるからかな?」


 ハッピーは常に神聖な輝きを発していたんだ。神職者なら、その威光を感じ取れたことだろう。


「リオ様!!」


 ここで俺を呼ぶ声。それは聞き覚えのあるものであり、現れた人は俺も知る顔だった。


「グリム僧兵長……」


「今は司教級に昇格しております。僧兵の任務を解かれ、教会の復興に尽力しております」


 俺がここを離れて何ヶ月が過ぎたのだろうな。


 僧兵長は司祭級であったらしく、現状は司教に昇進したらしい。


「俺はエルシリア様の命令通り、勇者になって戻ってきた。約束の地へと案内してくれないか?」


「承知いたしました」


 このあと俺は聖王国の国家元首であるバラン教皇様と初めて面会し、重鎮たちを引き連れて神殿へと来ていた。


「リオ、身体がそこにある!」


 イヴァニスが声を上げた。


 恐らく彼は奉納されている身体を感じ取ったのだろう。


「まさか石棺に剣が収められているとは誰も思わないよな」


 大きな棺には勇者の亡骸なんぞ存在しない。


 長い年月を経た現在は勇者が安置されているとしか伝わっていないのだ。


 不意に神殿が輝きを帯びる。かといって、俺は動揺しなかった。


 それは分かっていたことだ。俺が勇者になって戻ってきたのなら、エルシリア様が降臨されるってことくらいは。


 光の粒が一所に集結していく。


 それは記憶にあったまま。女神エルシリア様がそのお姿を露わにしていたんだ。


「よくぞ戻りました。勇者リオ……」


 長い息を吐いてしまう。


 覚悟していたことだけど、やはり俺は勇者なんだな。


「お望み通り、俺は勇者になりました。それで聞きたいのですが、俺はイヴァニスに身体を乗っ取られてしまうのですよね?」


 俺の返答に神殿がざわめく。


 居合わせた者たちには意味が分からなかったのだろう。


 なぜなら、イヴァニスとは彼らが崇める勇者に他ならない。過去の勇者が現在の勇者を乗っ取るだなんて話は受け入れられないものであったはず。


「それしか方法がありません。現状のリオは割と無理をして勇者になりました。想定よりも弱い。勇者レイスより少し適性がある程度なのです」


 ま、そうだろうな。


 俺の願いを叶えること。それには勇者化させるしか不可能だったのだろう。


「分かりました。それで黒竜の居所は掴めましたか?」


「それは問題ありません。暗黒素に染まるエリア。南の果てにある孤島で黒竜は回復を待っておりました」


 そっか。黒竜は存在自体が暗黒素みたいなものか。


 エルシリア様には手に取るように分かるのだろうな。


「ですが、黒竜は再び破壊活動を始めております。大陸の南端は既に壊滅したと考えて差し支えありません。急がねば、アヴァロニア世界は滅びてしまうことでしょう」


 頷く俺は何も返せなかった。


 黒竜が動き出したこと。それはリオ・ウェイルの人生が終わることを意味するから。


 世界が終焉を迎える代わりに失われるのが、俺自身であるのだから。


「エルシリア、僕は割とリオを気に入っているんだけどね?」


 俺に代わって声を上げたのはイヴァニスである。


 僧兵たちは妖精だとしか考えていなかったのだろう。


 こいつこそが勇者なんだけど、喋り始めたイヴァニスに驚きを隠せない。


「聖剣イヴァニス、貴方は以前と同じように魔王を討てますか?」


 エルシリア様が問いを返している。


 こうなると俺はもうただの依り代でしかない。話に割り込む知識もなければ、その権利さえないはずだ。


「どうだろう? 黒竜が魔王に匹敵する力を持つのなら難しいかもしれない」


「やはり貴方は既にただの霊体なのでしょうか?」


「まあね。そこに身体を感じるけれど、恐らく僕は身体に戻れない。無理矢理に融合しようとすると砕け散ることだろう。見てみないことには分からないけれど」


 ここで不穏な話になる。


 イヴァニスが俺の身体を乗っ取ったなら、世界は救われるんじゃないのか?


 なのに、どうして難しいだなんて話をするんだよ?


「おいイヴァニス、何とかしろ。俺に気を遣っているのなら間違いだぞ?」


「そうじゃないよ。とりあえず、棺の中を見せてくれる?」


 まあ、確かに。現状を把握してからってことかな。


 俺は教皇様にイヴァニスが光の大精霊であることを告げ、棺の中を改める許可を得ている。


 棺が開かれるのは安置されてから初めてのことだという。


 何千年というときを経て、勇者イヴァニスの棺が開かれるのだった。


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