第216話 真相を告げて
どれくらい時間が経過したのだろう。
俺は意識を戻していた。
記憶を掘り返すと、勇者になったはず。
最後に聞いた通知はそれを肯定するものだった。
ジョブ勇者の補正なのか、俺が持つ最後の炎魔法インフェルノの使用が可能となっていたんだ。
呆然とする俺は例によって柔らかい膝の上に頭を横たえている。エレナは膝枕をして俺を介抱してくれていたらしい。
「どれくらい寝てた……?」
まずは確認から。間違いなく昏倒していたんだ。
恐らく直ぐに魔力ポーションを飲ませてくれたと思うけど、経過時間が気になってしまう。
「三時間くらいかな? その間に色々とあったわ」
「何が起きた? まさか黒竜が現れたんじゃないだろうな?」
「悪いことじゃない。良いことだと思うけど……」
判然としない回答だな。
俺はあらゆる災難を受け入れる覚悟があるってのに、エレナは言葉を濁しているんだ。
「ま、見てみたら? アレよ……」
エレナが指さす先、俺は重い身体を起こしては視線を向けている。
「ハーピー?」
そこにはハーピーの姿があった。
どうしてか彼女に向かって集落の人たちが土下座していたんだ。
「あいつ、ここの人たちを脅してんのか?」
雑魚い魔物のくせに人を脅してんじゃねぇよ。
若しくは魅了ってやつかも。オークキングが魅了を使うと話していたし。
「おい、ハーピー……」
俺は立ち上がってハーピーの元へと。
彼女が住民たちを脅しているのなら、罰を与えないといけない。ここに連れてきたのは俺であるのだからと。
「ご主人様、お目覚めになられましたのね?」
んん? どうしてか口調が異なるような気がする。
加えて、真っ赤だった翅が真っ白になっていたんだ。しかも何だか神々しさすら感じさせている。
まあそれで、俺は聞かされていた。
エレナ曰く、色々とあったという顛末について。
「わたし、天使になりましたの!」
えっと、何だ? 天使ってエンジェル?
明らかに邪な魔物だったじゃんか?
「冗談言ってんじゃねぇよ」
「冗談ではありませんわ! ほら、見てください! この神聖さを!」
言ってハーピーは毛布を取り、その裸体を露わにしている。
「おおお、天使様ありがたや!」
「神々しい、おっぱ……、いえ聖なるお姿ですのじゃ!」
住民たちは滅茶苦茶有り難がっている。
主に男性陣がだけど……。
いやでも、どうしてだ?
ハーピーの下半身は完全な鳥であった。
上半身は翅がある以外は女性そのものだった。しかし、下半身は羽毛で覆われて、足先なんてニワトリのような感じだったのに。
それが今や人族と変わらない姿だなんて。
「お前、本当に天使なの?」
「そうお告げがありました。ご主人様を守るようにと。これよりわたしはハーピー改め、ハッピーと名乗りますわ。世界に幸せを届けたいのです!」
言ってハーピーは大きな胸をプルプルと震わせて見せる。
と同時に男性陣は再び土下座。皆が有り難やと口にしていた。
「とりあえず、胸を隠せ。本物のエンジェルなら、そんな破廉恥な真似はしない」
「みんな喜んでくれますのに?」
「いいから、早くしまえ!」
崇められていた理由は巨乳が八割くらい占めてんじゃねぇの?
確かに有り難い気もするけれど。
「リオの浄化魔法がハーピーをも浄化しちゃったみたいなのよ」
「そうみたいだな。これなら世界中で魔物が減っているかもしれない」
何しろ広範囲に光の粒が舞ったのだ。
流石は固有スキル。俺の通知にあったままだろう。
現状に戸惑うエレナには申し訳ないが、俺も驚愕に値する事実を伝えておこう。
もうパラディンだったリオではないってことを。
「エレナ、俺は勇者になったんだ」




