第215話 求めし姿に
「セレスティアブレス!!」
力一杯に掲げた右腕に魔力が集中している。
此度もまた魔力切れは不可避。ゴッソリと身体から抜け落ちていく魔力に、俺は昏倒を覚悟していた。
「絶対に発動させてやるよ……」
意識を強く持つ。圧縮されていく魔力に負けないように。
俺の精神に干渉するかのような魔力に抗おうとして。
「クソがぁぁぁっ!!」
手の平の更に多重魔法陣か展開される。
この様子からもただならぬ魔法であるのは明らかであった。
「いけぇえええええっ!」
怒声と共に魔力が抜けた。
圧縮されていた膨大な魔力が天へと向かって突き抜けていく。
内蔵や血液まで、その流れに引っ張られていくような感覚。内包する全てが手の平から放出されてしまいそうだった。
一瞬のあと、空と大地を繋ぐかのような光の柱が撃ち出されている。
それは途中に幾重もの日暈を生み出しつつ、やがて空を撃ち抜く。
青空は一瞬にして純白に染まった。
雲が生まれたのではなく、ただ純粋に光り輝いていたんだ。
しばらくして、空から光の粒が降り注ぐ。
それはまるで暗黒素で満ちた世界を洗浄しているかのようだった。
「やったぜ……」
俺は確信している。
この輝きが世界を浄化するのだと。
一人、二人と浄化する必要のない輝きであるってことを。
「おお! 意識が戻りましたぞ!」
ご老人の声が聞こえる。
どうやら、病人たちの症状が改善したらしい。それは俺による救済が成された瞬間だった。
「貴方様は救世主です! 貴方様こそがエルシリア様の使徒! 世界を救う英雄ですじゃ!」
嬉しいことを言ってくれるな。
それはエレナが望んだままだ。
俺もまた彼女の願望通りに、その姿になろうとしていた。だから、これ以上に嬉しい褒め言葉なんて存在しないのだ。
「救世主リオ様!」
「アヴァロニア世界の英雄リオ様!」
何て心地良いのだろう。
他者に崇められるなんてガラじゃなかったはずだけど。
でもな、俺はその声に満足していたんだ。
しかしながら、ここで俺の意識が薄れていく。
完全に魔力切れだ。
もう充分だろ?
とりあえず世界にある問題を一つ解決できたんだ。
少しくらい休んでも、問題はないよな?
薄れゆく意識の中で、俺は知らされている。
まるで想像していない現実が訪れていたことについて。
『固有スキル使用の結果により、ジョブが勇者へと昇格しました』




