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第214話 存分に輝け……

「大丈夫ですか!?」


 黒竜の襲来からどれだけ経過していただろうか。


 帝国の崩壊から考えると、三ヶ月近い日数が過ぎ去っていたはず。だが、今も人々は難民のような暮らしをしていた。


 僅かに残った屋根の下には十人ほどが横になっていたけど、世話をする人たちも顔色が良くない。


「あんた方、どこから来なすった? ここはもう駄目じゃ……」


「俺はリオって言います。お爺さん、何が起きたのか教えてください」


 集落の痕跡が確かにあった。少し東には木々も生えていたし、黒竜被害エリアの端であったのだと思われる。


「恐ろしかった。空を覆うかのような飛竜が暴れ回ったのじゃ。帝都方面には黒煙が立ち上り、遠く離れたこの地にまで漆黒の炎が飛び交っておった」


 聞くまでもなく黒竜の仕業だ。


 しかし、彼らはまだ幸福だと言える。大多数の人間は状況すら知ることなく、この世を去ったのだから。


「いや、不幸なのかもな……」


 生き残ったとして、死を待つだけ。住人たちを見る限りはそう感じられる。


「この井戸水を見てくれ。真っ黒じゃろう? だが、これを飲むしかないんじゃ……」


 桶に汲んだ水。それは汚水よりも黒く澱んでいた。


 黒竜が発しただろう暗黒素に冒されているのだろう。


「それは飲むべきではありません。身体が蝕まれるだけです」


「かといって、他に飲み水はない。食べ物にしても黒く変質したものを食って凌いでおる」


 俺は長い息を吐く。

 ちらりとエレナを見るも同じであった。彼女もまたこの集落の最後を予期してしまったのだろう。


「具合が悪い方の治療をしてみます」


「おお、神職者様でしたか! よろしくお願いします!」


 とはいえ、ヒールしか唱えられない。加えて、一人ずつ治療するしかなかった。


「ヒール!」


 唯一の回復魔法。俺にはこれくらいしかできない。


 だけど、その甲斐虚しく、誰一人として回復する様子はなかった。


「暗黒素を除去しないことには無駄か」


 少しくらいは延命できたかもしれない。けれども、原因である暗黒素を除去しないことには回復など見込めないだろう。


「イヴァニス、お前なら何とかできないか?」


 光の大精霊イヴァニスを頼るしかない。


 苦しむ人たちを楽にしてあげたいんだよ。


「難しいね。現状の僕は墓標を離れている。あそこであれば何とかできたけど、リオに取り憑いている状況では力を発揮できないよ」


 使えない大精霊だな。


 せっかく生存者を発見できたというのに、見殺しにしかできないなんて。


「クソッ、浄化!」


 エマの真似をして浄化と口にしてみる。


 しかし、無情にも俺の大声が周囲に木霊するだけであった。


「浄化! 浄化! 浄化ァァッ!!」


 何とか救いたい一心で連呼する。かといって、虚しくなるくらい何の変化も起きなかった。


「リオ、どこか街を探して、救援を呼ぶしか……」


「それまでこの人たちが持ち堪えられるのか!? もう一刻の猶予もなさそうじゃないか!?」


 自分の無力を嘆くべきなのに、俺はその鬱憤をエレナにぶつけてしまう。


 何て情けないのだろう。


 勇者? 英雄?

 俺には過ぎた願望だった。一人ですら救えない俺には到底無理な願いだったのだろう。


「ちくしょう! 何が使徒だよ!? 俺には何の力もない! 何の価値もねぇよ!!」


 意図せず涙が零れた。

 噛み締めた唇からは血が流れている。


 マジで自分が情けない。誰も救えず、エレナに八つ当たりしているなんて。


 ところが、


『浄化を習得しました』


 俺の願いは届いた。

 だが、そんなのじゃ駄目だ。浄化で救えるのは俺の目の前にいる人たちだけなんだ。


 きっと他にも生存者がいる。

 俺はその全員を救いたい。


「ちまちま治療させんじゃねぇよ! 俺の命を対価として世界を救うんだろ!? だったらもっと力を寄越せよ! 世界を救済する強大な力を俺に与えてくれ!」


 俺は女神エルシリア様に要求を突きつけていた。


 きっと彼女は俺の様子を見ている。浄化を授けた彼女は俺の心まで見通しているはず。


「俺に力をくれええええっ!!」


 刹那のこと、俺の身体が光り輝く。


 まるで意味が分からなかったけれど、きっとそれは俺の要求が届いた証しだ。


『ヒールと浄化は統合し、セレスティアブレスへと昇格しました』


 唖然とする。


 要求したのは俺自身だけど、未知なる魔法に昇格するなんて理解が追いつかない。


 まあでも、いいぜ。


 これで俺の願いが叶うんだろ?

 だったら、俺は命を捧げる。それが等価交換ってやつだ。


「存分に輝け、俺の命。目一杯に照らし出せ。闇に蝕まれたこの世界を……」


 俺は女神エルシリア様に感謝をし、右腕を天へと掲げる。


 どのような魔法なのか分からないけれど、撃ち放つだけで人々を救済できるはずだ。


 青空に向かって。


 俺はただ得られた魔法を口ずさむのだった。


「セレスティアブレス!!」


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