第212話 豆鉄砲だって?
オークキングが現れると、ハーピーは逃げてしまうらしい。
従って俺たちだけで登頂することに。
「魅力耐性とかないけど……」
「私が交渉できたらいいのだけど、言葉が分からないし」
魔物によっては人語を操る個体もいるらしいが、一般的ではない。
ハーピーもそこまで知能は高くないだろうし、俺が交渉するしかないだろうな。
登頂すると、聞いていたように枯れ枝で組まれた巣が点在している。けれど、そこにハーピーの姿はなかった。
「貴方たち、立ち去りなさい……」
不意に声が聞こえた。また、それは上空から届く。
見上げると、立派な赤い翅を持つハーピーが飛んでいたんだ。
「ハーピー、俺の言葉が分かるか?」
「あら? 貴方、わたしの声が聞こえるのね?」
傍目には鳥が騒いでいる鳴き声にしか聞こえないだろうが、俺には届いている。
「ああ、別に君たちを襲うつもりはない。少し話を聞いてくれ」
「人族は信用ならないわ。立ち去らないのなら、追い払うだけ!」
言ってハーピーは腰をくねらせている。
きっと、それが魅力スキルなのだろう。
『魅力耐性(反射)を習得しました』
仕事がはえーな。
俺の幸運は光の速さで耐性を得ていた。
もう既に変なダンスだとしか思えねぇよ。
「あうん!? なに、この感情!?」
えっと、反射ってそういうこと?
俺に効果がないどころか、ハーピーにそのまま跳ね返っている感じだ。
「いい男……。ねぇ、わたしと良いことしよ? 産卵させてぇぇっ!!」
ハーピーは即座に俺の前まで降りてきた。
オークキングから聞いたままだ。
上半身が女性であるハーピーはオッパイ丸出しである。
「ほらほら! こういうの好きなんでしょ?」
「待て! 死にたくないなら俺から離れてくれ!」
背中に感じる殺気。
俺自身に殺すつもりはなかったが、生憎と鬼の形相をして剣を抜く女性が俺の背後にはいる。
「リオ、この汚れた鳥は斬るしかない」
「待て! 貴重な移動手段だぞ!? 俺は魅力にかかってないし!」
押し付けられた爆乳に気を取られていたけれど、俺はシラフだ。
特に鳥感溢れる下半身を見ると、そんな気分にはなれない。
「本当? リオってば、その無駄に大きな胸が好きそうだけど?」
「いやいや! エレナに勝る胸なんかねぇよ! 俺は交渉するだけだから!」
「ああん! 交渉なんて不要よ? 早く産卵させて!」
「てめぇのためだっての!!」
魔物言語の習得者が俺だけで助かったぜ。
もしも剣聖様に聞かれでもすれば、今頃は肉塊になっていただろう。
「ハーピー、俺は北へと運んで欲しいだけだ。他に仲間はいないのか?」
「いないわ。黒い炎によって、みんな焼かれてしまった。生き残りはわたしだけよ」
マジか。てか、黒い炎って何だ?
疑問に感じた俺はイヴァニスに視線を向ける。
「それは暗黒だね。魔王が得意としていた魔法だよ。ハーピーたちは北の地で暴れ回っていた黒竜のとばっちりを受けたのだろう」
黒竜は気が触れたかのように帝国内で暴れ回ったと聞く。
ハーピーの巣が山頂にあったこと。不幸にも流れ弾を受ける原因となったのかもしれない。
「もう、わたししかいない。この群れを守るのは、わたししかいないの……」
流石に同情してしまうな。
魔物とはいえ、言葉さえ理解できれば分かり合えるんだ。
「子作りするために、貴方の豆鉄砲を早く!!」
「豆鉄砲いうなぁぁ!!」
前言撤回だ。
やはり魔物とは分かり合えない。特に倫理面においては。
「とりま、俺と彼女を乗せて北へと行け。断るとこうだぞ?」
俺は見せしめとばかりに、フレイムを撃ち放つ。
飛んで逃げようと無駄なことなのだと。
「凄い。これなら一瞬だわ……」
流石に鳩が豆鉄砲を食ったような顔。俺の凄さを理解したことだろう。
「貴方のキャノン砲で産卵させられてしまう!」
「豆鉄砲の訂正を促したんじゃねぇよ!!」
倫理観は破綻しているのだが、ハーピーは俺たちを運ぶことを了承してくれた。
まあ、これでようやく楽ができるな。
半年くらいかかると思われた旅路も短縮できることだろう。




