第208話 世界の真相
イヴァニスは俺が絶望していない理由に納得したのか、小さな頭を上下させていた。
「じゃあ、少しリオの身体を借りるとしようか」
言ってイヴァニスは光の粒をばら撒く。
祭壇の周囲は瞬く間に数多の輝きで満たされていた。
凄く綺麗だ。
幻想的な輝きに、しばし俺は見入っている。
「それは僕の遺灰みたいなものだよ」
「感動を返せッッ!!」
最悪だぜ。神秘的な輝きが遺灰だなんて。
そう聞くと触れる気も失せてしまう。
「とりあえず、リオへの紐付けができたよ。ここが墓標なら、君は骨壺ってとこか」
「遅ればせながら、俺は絶望してるよ!!」
まさか力を得ようと思ってやって来たら、骨壺にされてしまうなんてな。
「さあ、行こう。僕の知らない世界を見せてくれ」
どうやらイヴァニスは自分の意思で動けないらしい。骨壺である俺から離れられないのだろうな。
俺たちは通路を戻り、祠の外へと戻っていく。
「リオ! って妖精!?」
まあ驚くわな。力を得ようとした俺が、妖精を引き連れて戻るなんて。
エレナには経緯を伝える。イヴァニスの話だけでなく、俺が迎える結末まで全て。
「反対! 反対! はんたぁぁい!!」
まあ、そうなるよな。
エレナと俺は相思相愛。愛する俺が犠牲になるなんて、許容外であったらしい。
「エレナ、どうもエルシリア様は俺の犠牲を望んでいるらしい。レイスもそうだったけど、勇者とは自己犠牲を求められるのかもしれん」
「まだ勇者じゃないでしょ!? だったらリオは勇者になるべきじゃないわ!」
それな。
勇者になってくれと言われたけれど、現実はパラディンでしかない。なれるのかどうかも不明だ。
「エレナとやら、僕の依代は力がなければ務まらないよ。過去にいた彼も千年から生きていると聞いた。人族に務まるとは思えないね」
マジで?
確かにエルフなら、それくらい生きると思う。伝承に残っている話が事実であればだけど。
「でも、実際に俺は頼まれたんだ。成長して勇者になれと……」
「恐らく勇者というものが、ジョブの最高峰なのだろうね。力を得るのは難しいが、ジョブによる補正なら割と簡単だし」
「どんな力が必要なんだ? 俺は今でも最強感があるんだけどさ」
「僕の力に耐えられるのかどうか。光と闇の属性は身体を病むからね。僕の身体がオリハルコンであることもそれに関係している。他の大精霊は全て生体だったし」
確かに剣という物質が大精霊とか、御伽話でもアウトな設定だぜ。しかし、光の力が身体を蝕むなんて初耳なんだけど。
「聖職者でも無理なのか? 神官は回復魔法とか唱えるだろ?」
「本来、魔法は精霊だけが持っていた。当時は精霊術と言ったんだ。精霊に愛される者が力を借りて行使するもの。恐らく人族たちは進化したようだね?」
「精霊術? 魔法との違いは呼び名だけか?」
「効果は同じとはいかないだろうね。人と精霊は異なる。僕や魔王のような精霊と人は根本的に異なっているから」
全然、分からないのだけど?
馬鹿でも理解できるように説明しろってんだ。
「それは大精霊と魔王が同じだと話しているようなものだぞ?」
「同じさ。僕は光の大精霊であり、魔王もまた大精霊だったからね」
困惑する俺にイヴァニスは続けた。
信じがたい内容をそのままに。
「魔王は闇の大精霊から進化したのさ」
ええ!?
そういや、闇の大精霊って聞いたことないな。
光の大精霊は割と伝承に残っていたりするけれど。
「それマジなのか? 闇の大精霊が魔王になったってか?」
衝撃的な話だ。
俄かに信じられなかった俺はそのままの問いを返していた。
「エルフ、ドワーフ、人族という三種族をエルシリアが生み出す前、世界には精霊しかいなかったらしい。火水土風。原始の精霊が世界の基礎を作った。まあそれでエルシリアが三種族を創造したあと、世界には昼と夜が生まれたという。それの管理者が僕と魔王なのさ……」
聞けば、それまでの世界は昼も夜もなかったらしい。
現在からどれだけ遡るのか見当もつかなかったけれど、原初の世界にいた人々はそんな中で生活していたらしい。
「先に生まれたのは僕だ。僕は世界を照らし続けた。そうしたら、陰となる部分が生まれてしまったんだ。それが夜の支配者たる闇の大精霊。後から生まれたというのに、彼は光を呑み込もうとした」
「エルシリア様は関与していないのか?」
「エルシリアは世界と無関係。彼女は使徒たる三種族の繁栄を望んでいただけさ。精霊はいわば世界の使徒。よって僕たちもエルシリアに従う義理はない」
何てことだろう。
時間が経過し過ぎているのは明らかだが、現状の認識と異なり過ぎていた。
「だから精霊は人を嫌ってるのか……」
精霊に気に入られたなら力を与えてもらえる。俺は祠に向かう前、そう言われていたんだ。
イヴァニスが話す通りであるのなら、精霊と人族は相容れない存在かもしれない。
「そういうことだ。まあ個体差がある。無条件で嫌うことなどしないよ。君たちも世界が存在を許した者たちだからね」
精霊たちは世界に従い、俺たちはエルシリア様に従う。
世界の危機に協力するのはお互いにメリットがあったからだろうな。
俺はふとしたことで、世界の真理を知った。
隠されていた経緯でさえも。




