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第207話 期待する未来を

「さあ、その確認をしようか?」


 いや、どうやんのさ? 俺は生け贄で確定だろう?


 そうじゃなきゃ幸運とか授かってないだろうし、現状には至っていない。


 また俺はそんな未来を受け入れようとしていたんだ。


 エレナと良い関係にまでしてくれたこと。俺だけの力であれば、恐らく叶っていない。


 一瞬でも幸せを与えてくれた女神エルシリア様を俺は裏切れなかった。


「君の名は?」


 困惑する俺にイヴァニスは名を問う。


 少し躊躇したけれど、俺はその質問に答えている。悩むまでもないのだと。


「リオ・ウェイル。どうして名前を聞いた?」


「知っておこうと思ってね。かつて僕の依り代には名を聞いていなかった。今し方、それを後悔した結果さ……」


 そういうことね。

 何百年、何千年もあとのこと。俺のような使徒がリオという名を聞くのかもしれない。


 そのとき俺の名を知らなければ、イヴァニスは彼だとしか伝えられないのだ。


「やけに同情的じゃねぇか? 俺なんか歴史の一部ですらないってのに」


「そうかな? エルシリアに選ばれた者が何人いる? 世界を救った者が何人いるのかという話だよ。僕は身体を借りた者の名前すら知らない。それは犠牲に対して敬意がなさ過ぎると感じたんだ」


 意外と人情味があるのかもな。剣のくせに、俺のために俺の名を問うなんて。


「とりあえず、この墓標から離れるのに、君に取り憑く必要がある」


 イヴァニスは不穏な話を始める。


 いや、取り憑くって……。

 霊体だと聞いたけど、マジで幽霊なのかよ?


「乗っ取るのと取り憑くの違いが分からん。言っておくが、俺には大切な人がいる。彼女に事情を説明してからでないと、乗っ取りには同意できん」


「乗っ取るわけじゃない。僕はこの墓標に縛られているから、それを君に移し替えるだけの話。いわば、リオが僕の墓標なのさ!」


 そんなに爽やかな顔をしていう話か?


 てか、俺が墓標とか嫌な感じしかしないのだけど。


「まあいいけど、絶対に乗っ取るなよ?」


「今みたいな感じさ。リオの側を飛んでいるだけだって」


 まあ、それなら。

 イヴァニスは過去を知っているし、黒竜が本格的な破壊を始めるのなら、彼の力が必要になるもんな。


「しかし、死んでるのに憑依できるのなら、生きているときと変わらんだろう?」


「明確に違うよ。まず身体がない。僕の遺体は酷く損傷している。だからこそ、僕は生を失い墓標にいるのさ。身体がなければ自由に動けないし、君に憑依したとして本来の一割くらいしか力を発揮できないだろう」


「一割? それで黒竜に勝てるのか?」


 何だか不安を覚えるな。

 相手は暗黒素を大量に摂取したと思われる黒竜。一割の力で立ち向かえるようには思えない。


「エルシリアの考えを聞いてみたいね。恐らく僕の身体がないという不足分をリオで補おうとしているはずだけど」


「俺が強くなれば、黒竜を倒せる?」


「かもしれないね? しかし、僕の身体以上の武器があるとは思えないのだけどな。僕はオリハルコンで構成されていたから」


 オリハルコンって架空の金属じゃないのか?

 幻金属っていうくらいだし。


「修理できないのか?」


「どうだろう? 僕を生み出したのはドワーフの刀匠だった。ある日、僕は目覚めて身体に光を灯したんだ」


 イヴァニスが語る内容はいずれも眉唾物だった。


 エルフもドワーフも既にいないどころか、大半の人間が架空の存在だと考えているのだから。


「現在にドワーフなんかいねぇよ。依代になったエルフでさえも……」


 明らかに世界は変貌を遂げていた。

 その上で俺たちは世界の危機に対処しなければならない。


「ま、世界を見てからだ。魔王もいないのだろ? ならば、次なる災禍は過去と異なる。僕という精神体以外は全て一新された世界。どちらかというと僕がいるだけ有利だと思わないかい?」


「そうなんのかね? 俺は人生の終わりを見たようで、悲嘆に暮れているけどな?」


「そうかい? その割に絶望していないじゃないか?」


 イヴァニスはそんな風に俺を評価した。


 そうか? これでも落胆してんだぜ?


 強いて言うならば、恩返しか。エルシリア様に対しての。


 とりま、一応は返答しておこうか。


 終末を迎える世界でも前を向く理由を。


「そのような世界でも、俺には愛する人の未来が残っている」


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