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第206話 真相は……

「彼の意識は先に天へと還った……」


 えっと、何だろうな。


 俺は世界を救えと言われたはずなんだけど、その話が本当なら生け贄じゃね?


 戦うのがイヴァニス自身であるのなら、俺の意識に用はない。必要なのはイヴァニスを扱うことができる肉体だけだ。


「俺は何のために……」


 エレナの夢を叶えるため、英雄になりたかった。


 しかし、俺は入れ物としての存在らしい。俺の自我がないのであれば、そんな英雄になる意味はなかった。


「いやでも、イヴァニスは神殿で死んだはずじゃ……?」


「それは知らない。僕はこの山頂で魔王と共に死んだ。亡骸を運んだだけじゃないかな? ただし、僕の亡骸は力なきものが触れると正気でいられない。それなりに地位のある者が運んだのだろうと思う」


「分かんねぇのかよ……?」


「あの瞬間のあとは何も知らない。君が起こしてくれるまで、ずっと眠ったままだったんだ」


 もしも教会の地位ある者が運んだとして、その彼が手柄を独り占めしたのだろうか。


 けれども、勇者の名はイヴァニスだと伝わっている。このことから悪意があった結果じゃない。もしも勇者を騙るのであれば、自身の名を口にしていたはずだ。


「俺はお前に乗っ取られる前提でエルシリア様に選ばれたのか?」


「確かにエルシリアの匂いがするね? 君は何を言われたんだい?」


 匂いか。俺が頂いたのは幸運だと聞いている。


 だけど、イヴァニスが聞きたい話はそんなのじゃない。何しろ、幸運はサラマンダーにも分かったことだからな。


「俺は努力して勇者になれと言われたんだ」


「また勇者か。きっとそれは僕を操れる力を持つ者なんだろうね」


「光の剣が届くとかどうとか。俺の前にもジョブが勇者だった人がいる」


 俺はレイスの話を始めている。


 ジョブ勇者は間違いなく存在するんだ。初代については分からないけれど、レイスがいた事実はそれを肯定しているはず。


「光の剣か……。認識の差異はあったとして、それは僕だろう。僕を操れる者の存在が、魔王討伐には必須だったからね」


 長く冬眠していたイヴァニスも徐々に理解し始めたのかも。


 イヴァニスを扱う器が勇者であり、過去から察するに魔王を討てる者らしい。


「今の時代は暗黒素に犯された竜が相手なんだけど?」


「暗黒素の量にもよるだろう。塊を呑み込めば魔王にも匹敵するだろうし、僅かであれば気が触れるだけだ」


「いや、魔物って分かるか? 魔王が死んでから暗黒素によって進化した生き物だ。ドワーフやエルフといった人たちは魔物になってしまった」


「何だって? エルフがいないとかどういうことだい? 彼らは女神の使いだろうに?」


 イヴァニスは一通り理解したようで、その実は分かっていないようだ。


 現在の話を俺は掻い摘まんで伝えている。魔物がどうやって発生したのか。黒竜が脅威となっている理由まで。


 小さな身体だというのに、イヴァニスは大きな溜め息を吐いた。


 彼が知る世界から一変した死後の世界。眠り続けた彼はようやくと真相を得ている。


「そんなことになっていたのか。実をいうと僕の依り代はエルフだった。エルシリアは彼を僕の下へと遣わせて、世界を救ってくれと言ったんだ」


「エルフの彼は分かっていたのか? そもそもエルシリア様には何もできないのか?」


 疑問が次々と思い浮かぶ。


 女神であるエルシリア様が魔王をどうにかできなかったのかと。生け贄となったエルフは全て了承していたのかどうかって。


「もちろんさ。彼は快く身体を譲ってくれた。とても具合が良かったのを覚えている。まあ、それでエルシリアだけど、彼女の力は強すぎるんだよ。エルシリアが本気を出せば魔王くらいわけないかもしれないが、その際には世界そのものも壊れている」


 イヴァニス曰く、女神様が介入するのなら、大地が割れて大海が干からびるようだ。


 真相は分からないけれど、エルシリア様にできるのは顕現をして希望を伝えることだけらしい。


「なら、お前は俺の身体を乗っ取るつもりか?」


「エルシリアと世界が望むならね? 黒竜という存在を確認してからだけど」


 判然としないな。

 恐らくエルシリア様は俺を生け贄として世界を救うつもりだ。またこの邂逅ですらお見通しであった可能性まである。


 イヴァニスは熟考する俺に向かって、予想外の話を始めていた。


 選択肢などないと思われたのに。


「さあ、その確認をしようか?」


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