第203話 運命
「メガバァァストォォオオオ!!」
唱えた瞬間から、身体中の魔力が欠落するような気がした。
全身から集められた魔力は手の平へと集中する。例によって眼前には巨大な魔法陣が展開。魔法威力を容易に想像できる多重魔法陣が現れていたんだ。
「ぐおおおお!!」
魔力の超圧縮に耐えられないのか、手の平から血が噴き出ている。
爪の隙間だけでなく、毛穴からもシャワーのように飛散していたんだ。
だけど、痛みくらい我慢してやるよ。
だけど、絶対に発動しろ。たとえ命に替えてでも。
俺はそれだけ期待してんだ。メガバーストという未知なる魔法に。
「腕が爆発しようと発動しろォォッ!!」
刹那に多重魔法陣が目も眩む輝きを帯びる。
その光は一瞬にして消失するも、即座に複製したかのように、目映い輝きが視界全体へと拡がった。
純白に彩られた世界。
だが、一瞬のあと視界は一転し、真紅に染まっていく。
轟音を伴ったそれは激しい地鳴りと共に激しく大地を焼き始めていた。
「っ……」
意識が朦朧とする。しかし、即座にエレナが俺の口へと小瓶を突っ込んでいたんだ。
何だか締まらないけれど、俺は魔力ポーションを飲み干している。
酷く痛む頭。更には網膜に焼き付く赤色に酔う。
どうにも意識を保てそうになくなるけれど、先に観念したのは炎の方であった。
「っ……?」
先ほどまでの地響きは収まり、一転して耳鳴りがするほどの静寂に包まれていたんだ。
視界には何もなくなっていた。
木々や岩、山でさえも。
等しく失われている。当然のこと、強大なヒュドラも例外なく。
「勝った……のか……?」
いや、勝ったというより蹂躙。まるで神にでもなったかのようだ。
何しろ一つの山が完全に消し飛んでしまったのだから。
「リオ……これって?」
エレナも冷静さを取り戻していた。
魔力ポーションを飲ませてくれたあと、彼女は我に返ったらしい。
「ホント馬鹿げてんな……」
今さらに思う。サラマンダーもまた神ではないのかと。
神に準ずるような巨蛇を一瞬にして屠ったんだ。そんな力を与えたあの妖精は、きっと神様なのだろう。
しばし呆然とする俺たち。だが、いち早く復帰したのはエレナだった。
彼女は何かしら発見したようで、指さしては俺の方を向く。
「リオ、あれって炎の祠じゃない?」
完全に整地された山にどうしてかポツンと祠があったのだ。
確かに見覚えのある形。サラマンダーと出会った祠が山中から現れていた。
状況整理がまるでできなかったけれど、俺は受け入れている。
どうにも導かれた気がしてならない。
だからこそ、口ずさむ。
「運命……なのか?」――と。




