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第200話 異常事態に

 空の旅。それもエレナと二人きりだ。


 南部への移動が新婚旅行と口にしていたエレナだが、やはりエマがいない今の方が感情の高ぶりを覚えている。


「リオぉぉ……」


 ずっとエレナは上目遣いをして俺を誘っている。


 何人も子供をもうけると宣言していた彼女だ。空の上でも励むことを躊躇しない。


「エレナ……」


 うん、これは最高の空の旅になるとの確信があった。


 女神様ありがとう。アクロバティックなワイバーンの操舵を可能としているのは、ひとえにワイバーン(名人)スキルをゲットできたおかげだもんな。


 盛り上がった俺たちは時間を忘れて愛し合ってしまったんだ。


「幸せだわ。リオと二人で旅をする。私は本当に恵まれている」


「エレナ、俺はまだまだできるぞ?」


「リオってば!?」


 ずっと、こんな調子である。


 既に操舵している感じはない。

 だけど、名人級のおかげなのか、ワイバーンは勝手に飛んでくれるんだ。


 何日が過ぎただろう。


 俺たちは飯を食っているか、励んでいるかのどちらかだった。


 しかし、気が付けば眼前に巨大な山々がそびえ立っていたんだ。


「もう着いてしまったのか?」


「素敵な旅だったね? 帰りも楽しみましょ?」


 エレナもご満悦だ。


 他にすることがない現状なのだから、この結果は自然な成り行き。愛し合う男女がすることって、一つしかないのだな。


「エレナ、木々が枯れてるように見えないか?」


「そういえば、そうね……」


 荘厳な山々が連なるアレスタ山脈。


 原生林が拡がっているのかと思いきや、枯れ木が目立っている。燃えたというよりも、明らかに立ち枯れしていたんだ。


「魔物の姿がまるでないよな?」


 枯れ山と化した大地は上空からでも確認できた。


 懸念された魔物は一体たりとも存在せず、どこまでも枯れた木々が連なるだけだ。


「あの辺りから森になってるわ!」


 エレナが指さす先には青々とした木々が生い茂っている。


 明確に枯れ木との境目が見えていた。


「こうなると人為的にも感じるな。木々を枯らしてしまう魔法とかあるのか?」


「聞いたことないけど、それって意味あるの?」


 ま、確かに。


 人里離れた山脈を枯れ山にして誰が得をするってんだよ。完全に無駄な行為だと思える。


 呆然と眼下を見下ろす俺たち。しかし、集中力を欠いていたのは明らかだった。


「きゃあああっ!!」


 突如としてワイバーンが操舵できなくなった。

 激しく揺れたあと、急降下してしまう。


「何が起きた!?」


 わけが分からん。

 俺はエレナを抱きかかえ、何とかワイバーンを操ろうとするけど、反応はない。


「死んでる……?」


 どうしてかワイバーンは死んでいた。


 だが、大きな羽には穴が幾つも開いており、何らかの攻撃を受けたのだと分かる。


「エレナ、落下するぞ!」


「だだ、大丈夫なの!?」


 正直にヤバい。だけど、それを口にするわけにはならないんだ。


 エレナを安心させつつ、何とか危機を脱しないと。


「動けぇぇっ!」


 必死で手綱を操る。

 滑空状態であるのだから、何とか操舵できないかと。


 俺は枯れ木の隙間へとワイバーンを降ろすため、懸命に手綱を引っ張っている。


「名人級の仕事をしろォォッ!!」


 俺の叫びが天に届いたのか、或いは名人級のスキルが仕事をしたのか。


 何とか方向を変え、ワイバーンは狙い通りの場所へと滑空していく。


「クソッタレがぁぁっ!!」


 エレナだけは守る。

 彼女を胸に抱き、不時着の衝撃に耐えて見せるんだ。


「うわあああぁ!!」

「きゃああぁあああ!!」


 着地した衝撃で俺たちは、すっ飛ばされていた。


 転がる今もエレナを抱いたままだ。

 俺は怪我しても、彼女だけは守り切るんだよ!


「ぐはっっ!!」


 最終的に俺の背中が朽ち木へとぶち当たって、俺たちは停止。何が起きたのかも分からないまま、地面へと放り出されていた。


「ヒール!」


 こんなときパラディンは助かる。

 ヒールしか覚えていないけど、咄嗟に回復できるのだから。


「リオ、大丈夫……?」


「エレナこそ。君の安全が第一だ」


「リオぉぉ……」


 うん、俺たちは場所も状況も考えないバカップルだな。


 危機的状況にあっても、盛り上がってしまうなんて。


「あっ!? リオ、私のパンツがないわ!」


 良い雰囲気になっていたのだが、突如としてエレナが声を張る。


 どうやらエレナは落下中にパンツをなくしてしまったらしい。


「マジか! ずっと脱いでいたもんな……」


 俺に至ってはズボンがずり落ちたままだ。


 よくよく考えると、二人してこんな格好で死ななくて良かったぜ。


 死体として発見されたなら、俺たちが死の直前まで励んでいた馬鹿だと思われるところだった。ま、少しも間違っていないのだけどな。


「私、パンツなしで生きるしかないの?」


「俺のを貸してやろうか?」


「いや、領主がフルチ……いえ、ズボンから形が見えちゃうじゃない? 領民たちに示しがつかないわ。私ならドレスだし、見えることはないけれど」


 それもそうか。こんなことなら着替えくらい持って来たら良かったな。


 残念だが、エレナにはノーパンで過ごしてもらうしかない。

 俺としては喜ばしいまであるけれど。


「これからどうするの?」


「とりあえず、ワイバーンがどうして死んだのかを調べよう」


 まずは原因究明から。元気よく飛んでいたワイバーンが突然死んだこと。何者かによって殺されたと考えるべきだろう。


 そんなわけでワイバーンの亡骸を調べたのだが、想像よりも損傷が激しい。


 俺たちの代わりに衝撃を受けてくれたのだから当たり前なんだけど。


「ちょっとリオ、ワイバーンの周辺にある草が枯れてるわよ?」


 エレナの指摘に、俺は確認してみる。

 確かに、死骸の周囲だけ草が枯れていたんだ。


 俺は瞬時に推し量っていた。


 上空から見た枯れ木や、この現状から察して。


「これって猛毒──?」


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