第198話 表明
私は壇上の中心へと進む。
拡声魔法が施された集音具の前で一つ息を吸った。
「エレナ・メイフィールドですわ。リオ様の全てに惚れております。伯爵令嬢でしかない私と婚約していただけたことには感謝しかございません」
夢は今も持っています。
素敵な英雄様が白馬に乗って迎えに来てくれるという少女の妄想にも似た夢を。
だけど、現実としてリオ以外の男性は受け付けられない。もうリオしか私の瞳には映らないのです。
「きっと初恋だったと思います」
夢は恋じゃない。
だからリオが私の初恋。それは私が死ぬ直前まで永遠に続く淡い想いでした。
「リオ様の全てが好き。このような場所でする発言ではないかと存じますけれど、毎晩毎朝、毎日繰り返される感情なのです。どうかお許しください」
どうしても私の気持ちを伝えたかったから。
燻る感情を吐き出さないことには次なる話が口を衝きません。
「私はウェイル辺境伯領の発展に尽力したいと考えます。何人も子をもうけ、立派に育てていく。領民様たちの安全な生活を守り、次なる世代が誇れる所領にしていきたい。ただし、出しゃばるのではなく、尊き領主たるリオ様を影から支えていく所存ですわ」
私の所信表明。
自己紹介だけで良いはずなのですけど、物語で読んだ貞淑な妻が理想です。
子育てこそが私の責務。所領が未来永劫続くように立派に育てたいのです。
「リオ様も仰っておりましたが、まだ南部には問題もございます。何らかの存在がこの地を脅かしております。しかし、私は剣聖です。女神様より賜った力は伊達ではないことをお見せ致しましょう。これでも割と強いのですよ?」
少しばかり冗談めいた話に。
たぶん私は戦える。この数日戦ってみて分かったもの。
考えていたよりもずっと、剣聖は機能していたのよ。希望する鍛冶士じゃなかったのは女神様には分かっていたからなのね。この力が私には必要だってことを。
「それで私もまた鍛冶職人の見習いだったりします。一般の親方様に弟子入りをして剣を打っているのです。鍛冶は本当に面白い。実をいうとリオ様の大剣は私たちの合作なんですよ? どこに出しても恥ずかしくない作品なので、機会があれば見てくださいね?」
正直に何を口にしているのか分からなくなってきたわ。
まあでも、リオが領民との壁をなくしたいのなら、私もそれに従うだけ。偉そうぶるなんてしたくありませんでした。
「エレナ・ウェイルとなる日を心待ちにしております。きっと、その未来には世界を脅かす存在などおらず、ただ穏やかな毎日があることでしょう」
こんな感じでどうかな?
聖女であれば神聖な魔法とか披露できたのでしょうけど、生憎と私は火属性魔法しか唱えられません。
だから剣聖らしく剣を掲げ、私は誇らしげに声を張る。
「ウェイル辺境伯領に光あれ!!」




