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第197話 顔見せ

 一週間が経過していた。


 街道沿いの魔物は一通り殲滅している。


 孤立していた街には食糧が届けられ、再び領内の流通が始まろうとしていた。


「若様、もう大型の魔物は概ね駆除できたかと存じます。それで領民に平穏が戻ったことを通知して欲しいのですが……」


 朝食の席でマリスが言った。


 ああ、それな。

 確か領民への顔見せもあると聞いている。


 もう魔物被害の報告もないし、良い頃合いなのかもしれない。


「承知した。全ての街を回るのか?」


「滅相もございません! 魔道映写によって、領内各地に映像を届けます。若様にご足労いただく必要はありませんので」


 それは楽ちんだな。

 大小会わせると五十以上あるって聞くし、ラズベルから通知できるのなら、それに越したことはない。


「エレナの紹介もして良いか?」


「もちろんでございます! エレナ様はお強いだけでなく、その美貌も素晴らしいですからな。きっと領民も喜ぶことでしょう」


 それなら紹介しとかないとな。


 既に婚約者なんだし、いずれ俺の妻になる人なんだ。領民たちに、いち早く知ってもらった方がスムーズに事が運ぶだろう。


 このあと準備が行われ、昼過ぎに俺たちはラズベルの大広場に設置された会場へと来ている。


 見渡す限りに人がいた。

 ラズベルの全人口がここに集結したかのようである。


 辺境と聞いて想像するものと実際の街は違っていた。


 発展具合もさることながら、王都に匹敵するくらいの領民が生活していたんだ。


「エレナ、行くぞ?」


「う、うん……」


 流石にエレナも緊張しているようだ。


 エマに至ってはブンブンと首を振るだけ。一緒に壇上へ上がってもらおうと考えたけれど、エマはこういったことに慣れていないのかもしれない。


 ま、それは俺もだけど、俺は辺境伯領の後継者なんだ。


「リオ・ウェイルだ……」


 少しばかり緊張しつつ、自己紹介を始める。


 これは顔見せであり、結果報告は二の次。領民の心を掴んでおかねばならない。


「知っている者も多いかと思うが、俺はウェイル家の嫡子ではない。元は男爵家の五男であって、間違っても育ちが良いとは言えないな」


 部下には舐められたら負け。

 しかし、領民は違うと思う。同じ目線で見ること。腰の低さとは違うかもしれないが、俺は別に崇められるような人間じゃないし。


「俺はひょんなことから父ガラムの目に留まったんだ。冒険者と鍛冶職人の見習いをしていたんだけど、父は俺を下に見ることなく養子にしてくれた。だから、俺もまた身分なんて気にしない。才能あるものは登用するし、貴族であっても無能はごめんだ。やはり所領の実益を重視していきたい」


 まだ俺は跡目を継いでいないけれど、そんな話を始めていた。


 理想の領主像。ガラムの背中を俺は見ている。


「まあそれで、今回の魔物被害について。一応、領内の魔物は大型と中型に限り、駆除し終えている。物流も問題なく動いているし、平時に戻るのに時間はかからないだろう」


 話途中であったものの、ここで拍手が送られていた。


 やはり民衆たちは平和な暮らしを求めてたんだな。餓死者が出ていた頃と現状はかなり違うと実感したはずだ。


「俺は原因と思われるアレスタ山脈に行ってみようと思う。恐らく、そこには何か強大な魔物が潜んでいる。山脈から逃げ出した魔物たち。それが今回の原因なんだ」


 こんなものだろう。

 自己紹介にしても語ることは多くないし、現状報告だって住民が知るままだしな。


「何が原因であれ、俺は無双するだけだ。武門の跡取りに相応しい戦果をもたらせると約束しよう」


 再び万雷の拍手がある。


 実に喜ばしいことだ。

 あとは我が婚約者について賛同を得られたのなら、俺はそれで充分だった。


「王都で発表したのだが、俺の婚約者を紹介しよう。エレナ・メイフィールド伯爵令嬢だ。彼女のジョブは剣聖であり、魔物駆除にも助力してくれた。可愛い顔をして、なかなかの強者だから怒らせるんじゃないぞ?」


 笑い声が木霊している。


 掴みは上々かもしれん。あとはエレナがキメてくれたら完璧だ。


 紹介のあと、エレナが静かに前へと歩む。


 この辺りは伯爵令嬢として育っただけはある。堂々として、それでいて優雅で。


 誰しもが感嘆の溜め息を吐いていたことだろうな。


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