第195話 スタンピード
マリスは早速とワイバーンを用意してくれた。
まあそれで操舵だけど、俺も学んでおきたいと思う。今後も遠出するのなら、ワイバーンくらい操れた方が助かるし。
「俺に操舵させてくれ。初めてだけど、指示してくれたら何とかなる」
「承知しました。これでも私は馬を駆るよりワイバーンの操舵を得意としておりますから」
意外にも直ぐに了承を得られている。
早速、出発しようとしたところで、
「リオ、私たちはどうするのよ?」
エレナが不満げに言った。
まあ、それな。
エレナは充分に戦えるだろうけど、俺はまだ彼女の実力を知らない。よって一人で行動させるわけにはならなかった。
「エレナとエマは待機。バジリスクの駆除は明日からだ。ゆっくり休んでいてくれ」
「でも……」
「俺なら心配ない。空からフレイムを放つだけだし、周辺の様子を確認するだけだ」
問答している時間も惜しい。俺はマリスに目配せをして、ワイバーンを操ってもらう。
さぁて、上空から見る我が所領はどんなものかね?
◇ ◇ ◇
ラズベルを飛び立った俺とマリス。聞いていたように街門の南側は広大な穀倉地帯が拡がっていた。
「ところどころに魔物がいるな? でも、密度はしれているか」
「そうですね。魔物の種類も多岐に渡っています。やはりバジリスクはもう周辺にいないのではないでしょうか?」
「恐らく一番脚の速い魔物がバジリスクだったんだろう。最悪なことに強めの魔物が先に到達したのだと思う」
以前のスタンピードも脚の速い魔物が先頭だった。つまり同じ状況が南部でも起きたということになる。
「元が同じスタンピードだとすれば、黒竜とは異なる原因かも……」
「若様、それは帝国を滅ぼしたという飛竜のことですか?」
いや、俺は黒竜が原因ではないと言ったんだ。
何しろ、黒竜が引き起こしたスタンピードは遠く離れた王国まで勢いが持続していたんだ。
「黒竜は無関係だろう。今回のスタンピードは小規模すぎる」
俺は以前のスタンピードについて説明。此度とは明確に異なっていることを。
「なるほど、確かに帝国を滅ぼした黒竜が原因であれば、もっと苛烈なスタンピードが起きていたと。では原因は何でしょうかね?」
「それが分かれば苦労しない。ワイバーンに慣れたら確認してくるよ」
マリスに手解きを受けていた操舵なんだけど、実際には馬よりも簡単だった。
だけど、よく躾けられたワイバーンであったからこそであって、俺の実力ではないはずだよな。
『ワイバーン操舵(名人)を習得しました』
え? マジ……?
まだ一時間と操っていなかったけれど、俺はワイバーンの操舵レベルが一度に名人級となってしまった。
「若様は流石の運動神経ですね! こんなにも早く乗りこなすなんて!」
手放しで褒めるマリスだけど、それは違うんだ。
俺は幸運値が異様に高いだけ。女神エルシリア様が施したおかげで不運から超幸運に変わっただけなんだ。
「他のエリアでは魔物を焼き殺すぞ!」
「了解しました!」
このあと俺はワイバーンを意のままに駆って、魔物の駆除を始めている。
異常な数が現れていたけれど、どの個体も落ち着き払っている感じだ。やはりアレスタ山脈にいるだろう元凶はそこまで強い魔物ではないのかもしれない。
俺たちは四時間ばかりラズベル周辺の魔物を駆除した。
上空から目につく大型の魔物ばかりだけど、元より小型の魔物なら私兵でも戦えるはずと。
存分に戦ってから俺は邸宅へと戻っていくのだった。




