第192話 罰則
「じゃあな、侯爵様……」
俺たちの出番じゃない。優秀な私兵たちが瞬く間に殲滅してくれるらしいし。
「待て! 貴様たち、王命を無視するのか!? お前たちはバジリスクの討伐が任務だろうが!?」
虫の良いことに、マルコスは俺たちをこき使うつもりみたいだ。
確かに俺は王命にて、バジリスクの討伐が任務。しかし、侯爵領での被害は含まれていねぇんだ。
「残念だが、俺たちは四足歩行のバジリスクを討伐しなければならない。無足の蛇は任務外なんだよ。書面にもそう記してある」
「なっ!?」
俺の返答にマルコスは青ざめている。
明らかに異なる魔物事故なのだと、ようやく分かったらしい。
「侯爵様! 邸宅の直ぐ側までバジリスクが進入しております!」
新たな兵が声を張った。
それは高台に立つ侯爵邸にまでバジリスクが進入したという話。いよいよ後がなくなったらしいな。
「じゃあな。優秀な私兵たちの頑張りに期待している」
俺は二人の手を引いて、マルコスに背を向けた。
侯爵領の領民たちには悪いけど、マルコスの言葉通りなんだ。
クソみたいな所領に産まれた事実を恨んでくれ。
「まま、待ってくだされ……。非礼は詫びる。どうか助けてくれ!」
応接室まで響く大きな物音。バジリスクは侯爵邸を破壊しまくっているようだな。
「俺が許すとでも? お前はクズだろう? 猛毒を浴びて死ね……」
「金なら払う! 白金貨百枚でどうだ!?」
マルコスは引かなかった。
私兵に期待できないと分かったからか、俺に縋っている。
「金か……。なら白金貨千枚用意しろ。あと侯爵家は取り潰し。後に辺境伯領へと組み込む。それが条件だ」
呑めないのなら知らん。勝手に死ねば良い。ま、街で暴れる個体は倒しといてやるよ。
呆然とするマルコス。直ぐ側でガラスの割れる甲高い音が響いたあと、彼は俺の腕にしがみつくようにした。
「わわ、分かった。何でも言うことを聞く。助けてくれ……」
「魔道通話を用意しろ。王城に確認を取る。引き受けるのはそのあとだ」
絶対に取り潰し。
それだけは譲れない。証拠がなければ、再び態度を翻すに決まっているからな。
渋々と魔道通話機を用意するマルコス。
このあと俺は王陛下と話をし、マルコスに受けた仕打ちやら、現状までこと細かに伝えている。
刹那に、俺たちがいる部屋の窓ガラスが割れた。どうやらバジリスクがここまで来てしまったらしい。
「ひぃぃぃっ!?」
「るせぇな。フレイム!!」
怯えるマルコスに構わず、俺はフレイムを撃ち込んでいた。
豪邸が燃えようと知ったこっちゃねぇよ。邪魔な蛇は毒を吐く前に焼き尽くすだけだ。
「ホーリーレイン!」
ここでエマが魔法を発動。放っておけば良いのに、雨のようなものを降らせては消火活動をしてくれた。
「それで王陛下、俺はバルデス侯爵家の廃爵を求めます。明らかに国家に反した逆賊です。このような輩が力を持つと領民が不憫でなりません」
俺は訴えていたけれど、残念ながら満足いく回答を得られない。
『リオが怒りに震える理由は分かる。じゃが、いきなり廃爵にはできんの。せいぜい降格処分だ。あと侯爵は裁判にかける。断罪処分となるだろう』
「へへへ、陛下! 私めはリオ殿に生を約束されたのですぞ!?」
この期に及んでマルコスは生を望む。王陛下の決断は絶対であったというのに。
『マルコス、貴様は儂に反旗を翻した。リオは魔物被害を最小限にできる男だ。それなのに監禁しようとするなど……』
「申し訳ございません! 何卒、ご慈悲を!」
『国外であれば儂の権力外だと言っておこうか。これより王都から貴様を捕縛する兵を送る。到着まで二週間ほどだろうか……』
どうあっても生を望むマルコスに、王陛下は告げている。
これまでの貢献に対する慈悲なのだろうか。彼の意を汲むような話をしていた。
「それまで大人しくしておるのだぞ?」




