第190話 嫌な予感
翌朝のこと。ぶっちゃけ俺はあまり眠れなかった。
真ん中にエレナが眠り、両端に俺とエマが分かれて休んだわけだが、やはりエレナが隣で眠る状況は落ち着かない。特に第二の意思を持つ股間周辺が……。
「さっさと男爵領を出るぞ。故郷だけど落ち着かないし」
まだ眠いという二人をたたき起こした。
ぶっちゃけ連れ込み宿なので朝食を取る施設はない。露店で適当に食べ物を買ってから、俺たちは出発している。
封鎖された街門。しかし、王家の紋が入った通行証は無敵だ。衛兵は直ぐさま、街門を開いて俺たちを通してくれた。
それで三日ばかりが過ぎた頃、俺たちは農村地帯を抜けて荒れた荒野の先へと到着している。ここは問題のバルデス侯爵領に他ならない。
街門は問題なく通過できた。割と緊張したけれど、止められるような事態は起きていない。
「疲れてるだろうけど、バルデス侯爵領は通過するぞ?」
「そうだね。流石に居心地が悪いし……」
「了解。ガラム様に聞いてるわ」
俺とマルコスの関係は二人ともが理解しているらしい。
政務大臣が更迭されたのだから、エマはともかくエレナが知らないはずはなかった。
それで俺たちはメインストリートを南下して、南側の街門へと。
ここでも通行証を提示すれば街の外へと出られるはずだ。
ところが、考えていたようには進まない。
「リオ様、侯爵様がお連れするようにとのご命令です。申し訳ございませんが、街門を開くのはそのあとになります」
恐れていたことが起きた。いち早く抜けたのなら、足止めを喰らうことなどないと考えていたというのに。だが、魔道通話によってか、俺たちの存在は既に知られているらしい。
「俺は王陛下の命を受けている。無駄な時間を過ごすつもりはない」
ここは権力を振りかざすしかないな。
これでも俺は辺境伯の跡取り。実質的に侯爵家と同等以上の存在なんだ。
「しかし……」
「早く門を開け。王命に違反する気か?」
俺が威圧すると、兵は頷きを見せる。
上手く事が運んだと思った矢先、
「リオ様、そこまで急がれなくてもよろしいではないですか?」
俺は声をかけられていた。
そのいやらしい口調。それは忘れもしないマルコス侯爵の声であった。
「マルコス侯爵……」
「いや、おもてなしせねばと急いで参っております。先般の一件では失礼しました」
絶対に裏があるよな?
彼は俺に恨みを持っているはず。恨みに感じていないはずがなかった。
「辺境伯領ではバジリスクが暴れ回っているのです。隣接するここも他人事ではないでしょう?」
「今のところ被害はございません。一応は王家の指示通りに街道を封鎖しておりますけれど。少しくらいは問題ないでしょう。私めは先般の無礼を詫びたいだけなのです」
流石に侯爵本人が出てきては断りにくいな。
辺境伯領とも隣接しているし、ガラムの顔を立てておくことも必要かもしれない。
だから俺は了承するしかなかったんだ。
少しだけなら――と。




