第019話 幸運に恵まれし者
「貴方は瞬殺されると思っていたのに……」
いやいや、これは試練なんだろ?
まさか俺を殺すつもりだったのかよ。
「残念だが、俺は生きているぞ?」
薄い目をして聞く。
こいつは試練と称して、殺戮を楽しんでいるんじゃないのか?
「ああいや、そういう意味じゃない。実をいうと、あの竜種が湧いてから五年が経過していてね。それ以降、一人もここまで来られなかった。そういう意味だよ」
「あれはお前の意志で配置したわけじゃないと?」
「当然でしょ? 炎の意志を持つ者の選別なのよ? あんな怪物を配置しては全滅してしまうわ」
不満げな口調でサラマンダーは続けた。
ファイアードラゴンはイレギュラーであって、サラマンダーが意図する魔物ではなかったのだと。
「もう二度と人間と話をする機会はないかと考えていたのに、まさか倒してしまうとはね。褒めてあげるわ。幸運なる者よ……」
「その幸運って何だよ? どっちかって言うと不幸だろうが? イレギュラー的な強敵と鉢合わせてしまうなんて」
「その認識は間違っているね。幸運とはすなわち人生の全てを指す。世に名を轟かせる覇の者はいずれも高い幸運値を持っている。幸運がなければ成し遂げられない。それが覇道であり、幸運の導きなのよ」
まるで分かんねぇな。
人生全般に幸運があるのなら、俺は野宿続きで雑草とかを主食にしねぇっての。
「既に体感したでしょ? 幸運に恵まれる者は女神の加護を得やすい。加えて、その動作一つ一つに幸運が宿るの」
「いや、分からん。俺がドラゴンに勝てたのも幸運だというのか?」
「もちろん。仕留めた一撃。普通ならばダメージを与えただけ。しかし、息の根を止めたでしょ? あれはこれ以上ない会心の攻撃だったの。普通の人間ならば千回に一回くらいしか出ない。それをいきなり引き当てた貴方は相当な幸運値を持っている」
言われると、納得して……しねぇよ。
偶々、振り下ろした大槌がダメージが入りやすいところに落ちただけだっての。
訝しげに睨む俺を察ししてか、サラマンダーは尚も続ける。
「ならスキルを獲得したでしょ? この祠へ入ってから二度も。普通ならスキルは一万回戦って一回得られたら上出来なの。生活スキルでもない限り、早々手に入るものじゃない」
え? マジで?
火種を起こす魔法や、飲み水を生み出す生活魔法。確かに持っている人は少ないけれど、一定数は存在する。それは全員が一万分の一という確率を突破したということなのか?
「戦闘スキルになると更にハードルが高くなる。全く同じ攻撃を一万回繰り返さねば、確率として1にならないわ。二度の戦闘で二つを得る確率など存在し得ないのよ」
聞けば聞くほど俺の幸運値が高いって話が真実味を帯びている。
何しろ俺は戦うたびにスキルをゲットしていたんだ。加えて、鍛冶の特訓中にもスキルが昇格していた。
「スキルの昇格も確率は低いのか?」
「えっ? 昇格もしたの? 呆れた人ね。人生を通して一度でもスキルが昇格する人間など、百万人に一人いるかどうかだけど?」
「いや、俺は今までの人生で一度もスキルを習得したことなどない! 全てここ最近の話なんだ!」
全てに確率があるのなら、俺が得てきたスキルだって確率内のこと。これから先に一度もスキルを習得できないかもしれないし、一概に幸運だとするのは間違っていると思う。
「受け入れなさい。きっと洗礼の儀において、女神に気に入られたのでしょう。スキルを習得し始めたのは成人したあとじゃない?」
どうあってもサラマンダーは俺の幸運を否定しない。しかも的を射てやがるから、俺はもう反駁を唱えられなくなっている。
「女神も好き嫌いがあるから。気に入られるのは悪いことじゃない。それで貴方は何を望むの? 世界を統べる覇王となるのか、或いは魔物すらも従える魔王となるのか?」
なにその二択?
覇王と魔王しか俺には選択がないっての?
「いや、俺はたった一人の女性を手に入れたいだけなんだけど……」
世界なんていらない。名声だってエレナが求めないのなら俺には必要ない。
俺が欲しいものは彼女だけだ。それだけのために生きていると確信している。
「あはは、面白いね。貴方なら、世界を牛耳ることもできたでしょうに。良いわ。わたしもまた力を授けましょう。竜種を倒してくれた礼として……」
言ってサラマンダーは真っ赤に燃える火の玉を俺へと差し出した。
えっと、どうすんの?
それに触れると燃える気がするんだけど。
「目を閉じなさい。少しばかり熱いけど気にしなくていい。目を開いたとき、貴方はわたしの加護を得ているでしょう」
指示されるがまま、俺は目を閉じた。
刹那に胸が熱くなる。しかし、その熱は身体中へ溶け出すかのように、いつしか感じなくなった。
恐る恐る目を開くと、もうサラマンダーはいない。元の祭壇がそこにあるだけであった。
まあそれで俺は知らされている。サラマンダーが俺に何を授けたのかを。
『大精霊の加護を授かりました』




