第189話 これからのこと
ベルカを追い払ったあと、俺たちは花街の宿を探している。
意外にも一つ部屋があり、そこは妙に広いVIPルームであった。
「完全に三人でするって思われたじゃねぇか……」
きっと複数人の娼婦を買った客用だろうな。
俺は二人の美女を連れていたし、上客の一人に間違われたことだろう。
「実際にしちゃえば嘘じゃなくなるわ!」
「しねぇよ。休むだけだ」
三人同部屋なので、流石にお楽しみタイムはお預けである。
プロの娼婦であったエマに見られながらする自信なんかないって。
「しっかし、リオのお兄様は酷い人ね? 驚いたわ」
ベッドに腰掛けてエレナ。まあ、その感想は理解できる。
娼婦と間違われてしまうなんて、最低だもんな。
「あの男のせいで俺は男爵家を追放された。娼館の女に家の金をつぎ込んでいたんだ」
「そうなのね。だったら、少しくらいは感謝しないと。あの人がいなければ、私はリオと出会えなかったのかもしれないし」
嬉しいことを言ってくれる。まあでも、きっと俺はエレナと出会う運命だろう。
女神エルシリア様は言ったんだ。俺が運命に呑み込まれていると。
運命にはエレナとの出会いが確実に含まれている。彼女と出会わなければ、俺は聖地母神教会で自堕落に生きていたはずだから。
「俺はエレナと出会わない未来とか欲しくない」
「リオ……」
意図せず、良い雰囲気になってしまう。
しかも、ここは花街の宿。自然の流れなのかもしれない。
「あたしもいるんだけど? 三人でするなら許可するわ」
「だから、しねぇって……」
本当に最悪だ。
エマがいるだけで、俺は夜の楽しみがない。まあ、野外では割と励んでいたけどな。
「それで、ここから街道を南下するのよね? 辺境伯領までどれくらいかしら?」
エレナが話題を転換する。
彼女もまた俺を求めていそうだけど、やはり明るい部屋でエマに見られながらするなんて受け入れられないのかもしれない。
「たぶん、一週間ほどじゃないかな? バルデス侯爵領を超えた先だから」
バルデス侯爵領もまた俺としては通りたくない場所だった。
何しろ、俺のせいで更迭されたマルコス大臣の所領である。副都グランタールのあるカルマンド公爵領に隣接しており、とても発展した土地なのだ。
「バルデス侯爵家ってマルコス様の所領よね?」
「王家の通行証があるから、下手なことにはならないと思いたいけど」
俺たちは間接的に王命を受けている。
ガラムが嘆願した結果なのだが、歴とした公的文書を持っていたんだ。従って、マルコスが妙な行動に出ることはないと思う。
「とにかく、俺たちは辺境伯領へと向かって、バジリスクを退治するだけだ。任務を終えなければならないのだからな」
俺たちは戦うために来ている。
戦将軍は伊達じゃない。その意味合いを履き違えてはならないんだ。
任命した王陛下だけでなく、我が父ガラムのためにも完遂しなければならない。
少しばかり悶々としつつも、俺たちは久しぶりにベッドで眠るのだった。




