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第188話 再会

「リオじゃないか!?」


 俺は声をかけられていた。

 振り向くと、そこには懐かしい顔が……。


「ベルカ兄様……」


「ふはは、やはりリオか! 久しぶりだなぁ!」


 最悪だ。てか、貴方はどうして花街にいる?

 お金の管理は厳しくなったはずだけど?


「なぜ花街にいるのですか?」


「お前と一緒だよ! 良い女を二人も買いやがって! 辺境伯にもらわれたのは幸運だったな!」


 流石に苛っとしてしまう。

 ベルカ兄様はエレナとエマが娼婦であると勘違いしているようだ。


「兄様、二人は娼婦じゃありません。誤解しないでください」


「あっ、えっと、私はエレナですわ! リオと婚約しております」


「何だと? だったら、そっちの美人は娼婦だろ?」


 ある意味、正解かもしれないが、一応はエマも聖地母神教会のローブを羽織っているのだけどな。にじみ出る娼婦感を隠しきれていないようだ。


「あたしはエマ! 昔は娼婦だったけど、今は売り物じゃないの。残念ながら、あたしは聖職者よ!」


 兄様、そういうことだ。今のエマは歴とした聖女なのだから。


「でも、白金貨なら考えるわ……」


「性女に変貌すんなっ!!」


 油断も隙もねぇよ。

 これだからエマは疲れる。兄様の誤解を解くことができなくなるじゃないか。


 ちなみに白金貨は金貨百枚の価値で、ど田舎の男爵家にあるはずもない。


「リオが羨ましいぜ。マジで俺が家を追い出されてたら良かった。辺境伯の跡取りになれたのに」


 まるで俺が運だけで辺境伯家の一員になれたみたいに言われてしまう。


 確かに女神エルシリア様から幸運をいただいたけれど、俺は自分自身を誇れるほど努力したんだ。男爵家の五男坊であった頃からは考えられないほど頑張ったと思う。


「兄様では無理ですよ。娼婦に入れ込み、散財するだけの貴方には」


 俺にだって矜持がある。この兄とは決定的に違うんだ。


 お前にファイアードラゴンと戦った経験があるか?

 毎日、大槌を振って鉄を鍛えた経験なんかないだろ?


「リオ、お前はツイているんだよ! お前の娼婦を俺に貸せよ? お前よりきっと満足させられるぜ? 俺が調教してやるよ!」


「兄様、娼婦ではないと言ったでしょう?」


「花街にいる時点で娼婦だよ! 金がものを言う街なんだ! まあ、お前を辺境伯に売った金で俺は遊べているんだけどな?」


 滅茶苦茶に腹が立ってきた。このような人間と同じ血が流れているなんて。


 ベルカ兄様は強引にエレナの腕を引っ張る。本当にエレナを娼婦だと考えているのか?


「汚ぇ手を離せよ、ベルカ……」


 俺の我慢は限界を超えていた。


 こんな男に敬意など必要ない。先に生まれただけのクズだ。

 ここで斬り捨てるのは俺のためであるだけでなく、男爵家のためでもある。


 俺はマジックバックからバスターソードを取り出していた。


「ちょ、おま!? 兄を斬るつもりか!?」


「勘違いするなよ、ベルカ? 俺は辺境伯家の人間。男爵家の次男坊なんぞ斬り捨てても問題ねぇんだよ。それにエレナは伯爵令嬢だぞ? お前は確実に不敬罪なんだ」


 絶対に許さねぇ。

 俺が下手に出ていたら、付け上がりやがって。


「待て!? 伯爵令嬢!?」


「ああ、残念だが、その人はメイフィールド伯爵家のご令嬢だ。お前は彼女を娼婦だと罵った。死んで詫びろ……」


 俺が大剣を振り上げると、即座にベルカは地面へと這いつくばる。

 情けないことに助けてくれと懇願しながら、俺に土下座していた。


「お願いだ。リオ、助けてくれ。お願いだ……」


「言葉がなってねぇな? 俺は辺境伯の跡取りだぞ? リオ様と呼べ……」


「お願いします! リオ様、どうか助けてくださいまし!」


 俺は嘆息している。

 本当にクズすぎたんだ。こんなのが兄であったなんて。


「二度と家族面するな。俺の前に二度と現れるな。次は確実にその首を切り落とす」


 何だか馬鹿らしく思えている。


 ここでクズの首を斬ったとして後片付けが面倒だ。俺の手を患わせるよりも、追い払った方が賢明だろう。


「ああ、ありがとうございます! それでは!!」


 そそくさと逃げていくベルカ。俺はその背中に、どうしてか過去の自分を見ていた。


 魔物から逃げることばかり考えていた頃を思い出して。

 身体以外に心まで弱かったことを記憶の淵から引っ張り出して。


 長い溜め息は落胆以外の意味を含んでいなかった。


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