表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

187/232

第187話 花街

 王都セントリーフを発ってから一週間。

 俺たちはスノーウッド男爵領へと入っていた。


 しかし、何だか、おかしい。俺が知る男爵領とは違ったのだ。


「どうして、こんなにも人が溢れているんだ?」


 ぶっちゃけ街道が通っているだけである。


 南部へと向かうキャラバン隊が通行するのは日常だけど、彼らは通過していくだけなんだ。従って、こんなにも混雑している理由が分からない。


「リオの元実家はなかなかの賑わいじゃない?」


「ああいや、こんなはずはない。ずっと寂れていたはず」


 エレナの話に俺はそう返した。


 俺の記憶とは明確に異なる。何年も経過したわけではなかったのに、この賑わいは俺がいた頃と違いすぎるんだ。


「ねぇ、一泊していこうよ? あたし野宿は嫌よ?」


 ここでエマが口を挟む。

 しばらく野宿が続いていたんだ。疲れていたのは俺もだけど、正直に留まりたいと思えない。


「リオ、私も泊まって散策したいわ。リオが生まれ育った街を見てみたいの」


 エマの申し出を却下しようとしたけれど、エレナは乗り気みたいだ。


 しかも、何だか嬉しいことを言ってくれる。

 愛する俺の足跡を辿ってみたいってか?


「しょうがない。ま、馬鹿兄貴には出会わないだろ」


 俺が王都へ出る原因となった二番目の兄。ベルカ兄様には会いたくなかった。


 現状から考えると感謝すべき一人かもしれないが、俺はあのとき愕然としたんだ。


 男爵家の雑用でも構わないと考えていたのに、金貨一枚で家を追い出されたこと。


 それは全てベルカ兄様のせい。

 娼婦に入れ込んで、男爵家の金を使い込んでしまった。おかげで俺まで養う余裕はなくなったのだ。


「じゃあ、宿を探すか……」


 俺は軽く考えていた。

 宿に泊まって街を散策するだけ。それほど大きくもない街なら、直ぐに二人は飽きてしまうはずと。


 ところが、宿が見つからない。

 異様なほど人が溢れているためか、どこも満室らしい。


「まさか街道の通行止めが影響しているとは……」


 俺たちは通行許可証を持っているが、商人や旅人はその限りでない。


 どうやら、街道が開通するまで足止めを食っているだけみたいだ。


「エマ、宿がないのだから、野宿で決定だ。文句ねぇな?」


「あそこは!? きっと泊まれるわ!」


 言ってエマが指さした先。

 ああ、うん。気付いちゃったか。


 近寄らないようにしていたのだが、エマは目ざとく花街を発見している。


「花街だぞ? エレナを連れていけない」


「問題ないって! あたしたちを買ったことにすれば、泊まれるから!」


 いや、そうなんだけどさ。


 花街のシステムは女性を買って、安宿に泊まるというものだ。


 ベッドしかない宿であり、部屋数だけは用意されている。従って、空き部屋の一つくらいは残っているかもしれない。


「リオ、私は別にそこで良いよ? エマと違う部屋なら……」


「残念でしたぁ! 花街の宿はペア以上じゃないと泊まれませぇん!」


 そして、この二人だ。険悪ではなかったものの、仲が悪い。


 ぶっちゃけると俺を取り合うようにしていたから、折り合う感じはなかった。


「本当にそんなルールあるの? お金さえ支払えば可能じゃない?」


「いや、花街の方も一杯かもしれんぞ? 何しろ、この人混みなんだ。完全に街の許容量を超えてしまっている」


 俺としては早く出て行きたい。

 しかしながら、エマは馬を走らせて、花街へと向かってしまう。


 まあそれで花街。

 一般のエリアと分けられているけれど、ここもやはり人で溢れていた。こんなにも賑わう様子なんて俺も初めて見る。


 入り口で馬を預け、俺とエレナはエマを追いかけていく。本当に懐かしく感じる街並みだけど、生憎と良い思い出はなかった。


「最初に来たのはベルカ兄様が取り押さえられたときだったな……」


 嫌な記憶が蘇る。


 父様が金庫の金がなくなっていることに気付き、ベルカ兄様を疑ったんだ。花街に出没するという噂を元に、家族総出で見張っていたときである。


 まあ、それで俺は侮っていたんだ。


 男爵領の小ささを。花街も同様に広くないことをな。


 よって必然。会いたくない人物に出会うことさえも。


「リオじゃないか!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ