第184話 まあ、そうなるよね
「私も婚約者として同行いたしますわ」
ま、そうなるよね。
倫理観のネジが外れたエマと二人っきり。エレナが許すはずもない。
「うーむ、確かに嬢ちゃんの顔見せもした方がいいのじゃが、割と危険な状況じゃぞ? 街道を封鎖しておるくらいなのじゃ」
「俺が守るから安心しろ。猛毒もエマが対処してくれるし」
「そうじゃの。ならば任せようか。現状で二十体ほど確認できておる。じゃが、一体も倒せておらぬ。どこから湧いてきたのか不明じゃ」
「それって黒竜に関係してないか? 南部に逃げていったんだろ?」
「可能性はあるの。バジリスクの巣を襲った可能性は捨てきれん」
ちょうど俺は成長の機会を求めていたし、所領に向かう必要もあった。
道中もエレナと一緒であれば、きっと楽しい旅になるはずだ。
「明日の出発で良いか? 俺のバスターソードがようやく完成しそうなんだ。ロッド兼用のやつ」
「おお、それはタイミングが良いのじゃ。馬車は用意できんが、嬢ちゃんは馬に乗れるかの?」
「どうして馬車が使えないんだよ? エレナは伯爵令嬢だぞ? 馬に乗れるはずがないって」
そもそも馬車を二台用意してもらえたら、俺は道中もウハウハのウキウキなんだ。
長旅となるのなら、絶対に馬車を用意してくれ。
「御者が嫌がるからの。流石にバジリスクが闊歩する領地に行きたくないじゃろ?」
ああ、そりゃそうだな。
御者も命あっての物種だ。幾ら金を積もうと手を挙げる人はいないと思われる。
「しょうがない。馬を用意してくれ。エレナは俺が乗せていく」
「楽しみね、リオ! 新婚旅行みたいだわ!」
いや、まだ正式な婚約すらまだだけどな。
エレナは誤解している。バジリスクと聞いてもピンと来ていないのだろうけど、街道が封鎖されるような事態なんだ。キャッキャウフフとイチャついている場合じゃないってことを。
「嬢ちゃん、大丈夫かの……?」
「ああ、それは任せろ。命に替えてでもエレナは守るよ」
「リオも逞しくなったのぉ。良い跡取りを持ったものじゃ」
「そういや、娘さんたちに会わなくてもいいのか?」
確かガラムには娘が複数いたはずだ。
いずれも嫁に出しているそうだけど、俺も一応は家族なんだからな。
「もう家を出ておる。会う必要はないぞ。いずれも不自由ない暮らしをしておるでの。リオの話すらしておらんわい」
この爺さん、娘に養子を取ったことを話してないのかよ。
後々の問題になりそうだけど、ガラムの子供であれば難しい性格ではないのかもな。
「それよりもスノーウッド男爵領を通るじゃろ? その方が気がかりじゃわい。今やリオは王都で話題じゃからな。妙な足止めを食うかもしれん」
ああ、それな。
俺の立場は既に知っているだろう。金を受け取って養子に出したのだし。
しかし、問題は底抜けの馬鹿兄貴がいることだ。受け取った金を使い切っていたのなら無心する可能性がある。
「上手く逃げられたら良いけど、見つかったら金を渡しておくよ。どうしようもない兄貴がいるからな」
「なら幾らか渡しておくのじゃ。一筆したためた紙も同封しておく。足止めするなら容赦しないとな」
割と穏やかではない話が返ってきた。
戦争を仄めかされたのであれば、流石に兄様も黙り込むことだろう。武門である辺境伯家に喧嘩を売る度胸はないはずだ。
「悪いな。じゃあ、明日……」
翌日の約束をして、俺たちは別れた。
とりあえず、俺とエレナは急いでバスターソードの仕上げをしなくちゃいけない。
ミスリル製バスターソード。エレナの愛が注入された大剣であれば俺は無双できる。
毒トカゲなんぞ、敵じゃねぇよ。




