第183話 新たな展開
俺はエレナと同棲を始めていた。
ご両親に会ったことで、一つ階段を昇った感じだ。
まあそれで、今日も修行に向かおうかと言うとき、店の外から大きな声がした。
「リオ! リオはおるのか!」
その声はガラムだ。
共和国へ進軍したはずの我が父は一ヶ月で戻ってきたっての?
慌てて店舗側の鍵を開け、俺はガラムを迎え入れている。
「どうしたんだよ?」
「うむ、それが急用での……」
何だか意味が分からない。
エレナとの婚約は口頭のみであり、正式にはガラムが戻ってからとなっていた。
さりとて急ぐ話でもなかったはず。何しろ俺は一度も辺境伯領に赴いていなかったからだ。領民への顔見せが先だろうと。
「辺境伯領がバジリスクの大量発生で問題となっておるのじゃ」
バジリスクって蛇みたいな魔物だっけ?
それくらい私兵が討伐できないのか?
「ただのデカい蛇だろ?」
「お前も言うようになったのぉ。下位のバジリスクではない。上位のバジリスクで四足歩行するのじゃ。しかも火炎ではなく、猛毒を吐く。私兵では手も足も出んのじゃよ」
マジかよ。
毒を吐かれたら、俺だってヤバいっての。
「俺は対猛毒兵器じゃないぞ?」
「分かっとるわい。陛下にエマの同行を願った。エマならば、広域浄化魔法を持っておるからの。猛毒もただの汚い息じゃ」
「もうエマについて調べたのかよ?」
「逐一、魔道通話にて連絡を受けておったからの」
聞けば進軍中にエマの詳細を聞いていたらしい。
とはいえ、俺がどこの誰だか分からん女を連れて戻れば、調査くらいするか。俺は跡取りでもあるのだし。
「ガラムはついてこないのか?」
「それがな、ワシは空席になった大臣に指名されてしもうての。王都を離れられなくなったのじゃ。悪いが領民への説明はリオが行ってくれ」
そういうことか。
ま、顔見せはしなきゃだし、領民の危機を救うってのは良い機会になるだろうな。
「ガラム様、エマって女は誰なんです!?」
ここで愛しきエレナが口を挟む。
そういや、エレナは会ったことがなかった。会わせる必要もなかったし、そもそもエマを紹介するのは危険すぎる。
「エマは聖女じゃよ。帝国から我が国に亡命しておる。真面目に教会で働いておるらしい」
「せせ、聖女様なのですか!?」
「リオが共和国に囚われた折り、一緒に脱獄したそうなんじゃ。二ヶ月近く一緒に行動したらしいの」
おいジジイ、何言ってくれてんだ?
俺はその件について、エレナには喋っていないってのに。
「リオぉぉ? 初耳なんだけどぉ?」
あ、これはヤバいやつだ。
最近は手料理も作ってくれるようになったし、確実に前進している俺たちだったけど、大幅に後退させる話を知られてしまった。
「いや、本当に何もない! エマは勇者レイスと付き合っていたんだ。スラム出身で娼婦をしていたから、若干というか割と性に寛容だけど……」
「お世話になっていないでしょうねぇ?」
「潔白だ! 俺は初めてのとき滅茶苦茶だっただろ!?」
とにかく言いがかりだ。
初めてのときを思い出してもらえたら、俺が童貞だったことくらい丸わかりだろうよ。
「確かに。モニカに聞いた話と違っていて焦ったわ……」
あのときは助かったぜ。エレナがモニカの指南を受けていなければ、大失敗をしてトラウマになるところだった。
まあそれで、エレナは納得したのかと思いきや、ガラムに願いを請うのだった。
「私も婚約者として同行いたしますわ」




