第182話 一段落
「エレナを俺にください」
これ以上ない直接的な話。ご両親だけでなく、エレナも驚いていた。
きっと辺境伯の跡取りとしては間違った対応なのだろう。だけど、俺は成り上がりだし、そんなしきたりなんて知るはずもなかった。
「リオ様、どうか娘をよろしくお願いします。妙な夢ばかり見ている子ですが、根は優しい子なのです」
「分かっています。全部知っているからこそ、エレナが良いのです。王家や侯爵家から圧力がかかったのであれば、連絡してください。俺が絶対に守ってみせますから」
権力を振りかざすなんて嫌だけど、それは相手の出方次第だ。今の俺は父の威光を振りかざさずとも、個人の力を得ているのだし。
「俺は戦将軍に任命されております。近衛騎士団でも上位の役職です。メイフィールド伯爵家を煩わせるものがあるのなら、堂々と戦ってみせましょう」
俺の決意表明。その前の時点でお義母さんもエレナも涙していたんだ。
きっと二人は俺の意志をちゃんと理解してくれたことだろう。
「ありがとうございます。リオ様、今後ともどうかよろしくお願い致します」
深々と頭を下げられては恐縮してしまうな。
俺がいるだけで居心地が悪そうだし、そもそも顔合わせが目的なんだ。この距離感は会うたびに近付いていくと信じよう。
「今日はこれで失礼します。手土産も用意せず、申し訳ございませんでした」
「何を仰います! こちらこそお伺いせねばならないところを、ご足労いただきまして。おい、土産をリオ様に!」
どうやら俺が赴く背景はエレナが決めたことらしい。
ガラムにも別邸があったけれど、俺もエレナも行ったことがないし、俺は平民の家に住んでいるからな。
俺とエレナは再び馬車に乗り、勇ましき戦士の嗜みへと帰る。
馬車が動き出すや、二人して溜め息を吐いていた。
「リオ、ごめんね? こんなはずじゃなかったのに……」
「ああいや、俺は嬉しかったよ。エレナをお願いしますって頼まれたから」
俺の返答にエレナは頬を染める。
やっぱ、俺の彼女は最高に可愛い。超絶美人だと思う。
ここでエレナは向かい側から、俺の隣へと座る。
何か御者に聞かれたくない話でもあるのだろうか。
「リオぉぉ……」
うっ、ここで得意の上目遣いか……。
美しく着飾っているせいで、生唾が溢れまくってしまう。更には俺に構うことなく、エレナは俺に身体を密着させた。
「私、とっても幸せなの。英雄様が迎えに来たとして断るくらいに。もう私の王子様はリオだけだよ」
言ってエレナは艶めかしく俺を見つめている。
火照るような表情のエレナ。求められているような気がしないでもない。
「ここじゃ、流石に駄目だろ……?」
「キスくらいなら良くない?」
もう我慢できねぇよ。
色っぽく見つめられては断り切れないって。
「エレナ……」
俺たちは馬車の中でキスをした。
ようやく一つの山を越えたんだ。
出会った頃には想像もできなかった未来に俺はいた。
俺と抱き合う彼女はストリートで一目惚れをした彼女に他ならない。
絶対に釣り合うはずもない人だった。




