第181話 真っ直ぐに
正装した俺たちを乗せた馬車は上位貴族の別邸が建ち並ぶエリアへと来ていた。
その一番端。直ぐそこが街壁という場所に、ほどほどの邸宅がある。とはいえ、男爵家の本邸くらいの大きさであって、そこはやはり上位貴族だと言えた。
「小さな別邸だけど……」
「ああいや、元実家よりデカいよ」
俺が先に降りて、エレナの手を引く。いや、俺の彼女って綺麗すぎない?
鮮やかなブルーのドレスが目に眩しい。
空色をしたエレナの髪色に凄くマッチしてるぜ。
「緊張してきた」
「気楽にね? たぶんお父様の方が緊張してるから」
そういや俺は辺境伯の跡取りだった。
格式でいうと侯爵家と同等かそれ以上。公爵家には敵わないけれど、伯爵家からすると確実に格上なのだ。
執事に案内され、一階にある応接室へと俺たちは通されていた。
「なっ!?」
執事が扉を開いて直ぐ視界に入ったもの。
俺は愕然としている。
何しろ、エレナのご両親と思われる二人が床に座って頭を下げていたのだ。
「おおお、お父様!?」
流石にエレナも予想していなかったらしい。
二人はまるで王陛下に謁見しているかのような態度であったのだから。
「何卒、娘を嫁にもらっていただけないでしょうか? ああいや、妾でも構いません! どうか一つ……」
俺はどう対処すれば、いいのだろうな。
伯爵様にこれほどまで萎縮させるなんて、ガラムの奴はどれだけ権力を持っているってんだよ。
流石にエレナは薄い目をして両親を見ている。こんなはずでなかったのはエレナも同じ意見であったはずだ。
「お父様、リオは権力を笠に着るようなことなどしません。ちゃんと座ってください」
「いやしかし……」
「伯爵様、俺からもお願いします。どうか腰をかけてください」
「たたた、直ちに!!」
一瞬にしてソファへと腰掛ける二人。どれだけ俺を恐れているのかな。
「それで俺はエレナと婚約したいのです」
二人は萎縮しまくりなので、俺から本題を切り出した。待っていても事が進まないだろうと。
「いつでも大丈夫です! 何なら妹も付けましょうか!?」
「マリーはまだ十歳でしょう!?」
うん、てんでダメなお父さんだな。
緊張していた俺がバカみたいだ。
「エレナだけで充分です。俺は彼女を愛している。他の女性に興味はありません」
「割と良い顔立ちですぞ!? きっとスタイルも良く育つかと!」
「お父様、マリーのプッシュはもういらないから」
こんな調子が数時間続いてしまった。
おかげで俺はメイフィールド伯爵家の事情を完璧に把握している。
上の二人は下位貴族に娶ってもらい、残すはエレナとマリーの二人だけだという。
「グレイス侯爵様には俺からも話を付けておきます。既にリズさんとの婚姻は断ったはずなんですけどね……」
どうやら俺とエレナの噂話は王城を駆け巡って、グレイス侯爵の耳にまで届いたみたいだ。そんなわけで、伯爵様は立場がない感じらしい。
「ウチはグレイス侯爵様の庇護下で細々と領地運営しておるのです。辺境伯様が後ろ盾になっていただければ本当に助かります」
「父上も無下にはしませんよ。ただ辺境伯は南部の貴族なので北部の力関係にどこまで影響力があるのか……」
俺にはさっぱり分からない。
未だ一度も辺境伯領へと赴いていないのだ。領地の繁栄具合も分からないし、南部の上位貴族がどういった繋がりを持っているのかも不明である。
「本当にエレナを正妻にしていただけるので?」
「エレナが良いのです。エレナしか考えられない」
この伯爵様には明確にして伝えなければならないと思う。
ここが人生における山場だ。
真っ直ぐな想いを乗せて、最終的な言葉を述べている。
「エレナを俺にください」
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