第017話 思わぬ強敵
師匠に聞いたまま、俺は焔の祠へと向かっていた。
北街門を抜けて街道を北上。割と近いと聞いていたけれど、徒歩では一時間程度を要している。
「ここか……」
祠には結界が施されていた。
それは祠に棲みついた精霊によるものらしい。魔物が漏れ出さないようにするためのものだという。
ただ結界は挑戦者が手をかざすだけで解けるらしく、俺は説明を受けたままに結界を解いていた。
「緊張してきたな……」
愛用の大槌があったけれど、俺はまともに戦闘を経験したことがない。
精霊の試練なのだから、間違ってもレインボーホーンラビットのような雑魚が相手ではないはずだ。あの虹角兎にすら苦戦する俺が戦えるとは思えない。
「いやでも、師匠を信じる。俺なら戦えると言ってくれたんだ……」
ここで逃げ帰ってはリオ・スノーウッドは最弱なまま。打撃職人というスキルをゲットしたことだし、自信を持って挑むだけだ。
「ええい、ままよ!!」
俺はダンジョンへと踏み入れていた。
元々、何の祠なのか分からないけれど、ダンジョン内はちょっとした遺跡のような雰囲気だ。当然のこと魔物が現れそうな気配がプンプンしている。
「頼むぜ、相棒……」
自ら打った大槌。俺は改めて握り直している。
俺が成り上がるのなら、これくらいの困難なんて乗り越えて当然。伯爵令嬢に相応しい男となるために、俺は戦う必要があった。
入り口から真っ直ぐに進む。意外にもダンジョン内は暗くない。か細い蝋燭が灯っているかのように、割と視界が保たれていたんだ。
「マジ……?」
少しも魔物と出会わないなんて期待していない。だけど、早速と現れるだなんて、心の準備が整ってねぇよ。思わず、チビってしまいそうになったじゃないか。
「また兎……?」
出現したのは明確にホーンラビット。しかし、角の当たりから炎を発している。
もしも、それが突き刺さったとすれば、風穴が空くだけじゃなく、内蔵まで焼かれてしまいそう。
「嘘だろっ!?」
出会い頭に兎が跳びかかってくる。俺を弱者と見ているのか、やけに好戦的じゃねぇかよ。
「クッソッタレ!!」
思い切り大槌を振っていた。突進を防ぐ盾がないのだから、攻撃に合わせるしかないと。
狙いも何もない俺の一振りだったものの、どうしてか手応えがあった。
昨日、何度も鎚を振ったおかげか、俺の攻撃は適切な場所へと振り下ろされている。
しばし、呆然と立ち尽くす。なぜなら、もう戦闘の必要がなかったからだ。
大槌の一撃を食らったホーンラビットは既に原形を留めておらず、肉塊と表現した方が適切な状態。つまり俺は一撃も攻撃を受けることなく、炎を纏ったホーンラビットを倒すことができたんだ。
『スキル【風圧】を習得しました』
ここで通知がある。
何のスキルであるのか不明だが、恐らくは大槌の一振りで炎を相殺したからだろう。きっと炎をも吹き飛ばすスキルに違いない。
「俺ってば、そこそこイケんじゃね?」
この戦闘は自信になっていた。
俺でも戦えるのだと。適切な武器があるだけで、こんなにも容易く魔物を屠れると知って。
「よっしゃ、どんどん行くぜ!」
何だか無敵の英雄にでもなったかのようだ。英雄というには格好悪い武器であったけれど、俺は打撃職人なのだから見た目は仕方がない。
意気揚々と通路を進む。何が出てきても問題ないと俺は考えていたんだ。
無敵の英雄であれば、炎を纏った犬や猫が出てきても平気なのだと。
「そりゃないぜ……」
出鼻を挫くとはこのことか。次に現れた魔物は尻込みしたとして恥ずかしくない相手だったんだ。
「無敵の英雄といっても、俺はまだ無敵の英雄見習いなんだって。見逃してくれないかな?」
瞬時に無敵の英雄は弱者へと格下げだ。
いや、絶対に倒せないと思うんだよ。俺じゃなくてもビビるはずだって。
「ファイアードラゴンとか聞いてねぇよ……」




