第163話 告白(大嘘)
「ウェイル辺境伯家のリオ様よ……」
そう返答した直後、お父様は固まっていました。
まあ、そうなるでしょうね。
モニカの相手にも驚いたけど、私だって負けていないのよ。寧ろ地方の侯爵家よりも、ずっと格式が高いのだし。
「おま、それ……、今王城で話題のリオ・ウェイル様のことか!?」
「そう言ったじゃない? 耳詰まってんじゃないの?」
「信じられん。天賦の才を持つ類い希な好青年だと聞いたぞ? お前のような跳ねっ返りが相手してもらえるとは思えん!」
失礼しちゃうわ。
これでもリオから迫ってきたってのに。まあ最初は身体目当てだったのかもしれないけど。
それはそうと王城の噂。天賦の才を持つとか類い希な好青年とかリオの評価は天井知らずみたいね。
確かにカッコいいし、優しいし、何より私のことを大好きだって言ってくれた。
「そうなの……。えへへ、まいっちゃうなぁ!」
「絶対に騙されておるぞ! エレナ、目を覚ませ! ワシはしばらく王都におるから、適切な相手を見繕ってやる! 男爵家でも構わんな?」
「ちょちょ、待ってよ! 本当にリオは私と婚約したがってるの!」
「そんなバカな!? ワシは王城でソフィア姫殿下とリズ様に言い寄られていると聞いたんだ。伯爵家の三女に出番など永久にまわってこぬわ!」
やっぱ伯爵家はイケてないわ。
上位貴族には鼻で笑われるし、下位貴族と婚約しようものなら馬鹿にされるし。中途半端にも程があるっての。
「それはリオが断り切れなかっただけよ。ガラム辺境伯様も事情は知っているわ。だから、私の相手探しなんかしないで結構。私には、すってきな王子様がいるのだから」
「いやいや、お前は夢見がちだからな。きっと、どこかでお見かけしただけで、そう思い込んでいるのだろう?」
実の娘だというのに、どうして信用してくれないのかしら?
ウチの家でお父様だけ頑固なのよね。他には一人も頑固な人間なんていないってのに。
どうしようかと悩んだ挙げ句、私はとんでもない嘘を口にしてしまう。
「実はもう既に深い仲なの。何度もしたわ。ひょっとすると既に懐妊しているかも……」
したのはキスだけど。でも、もしかしたらキスでも妊娠するかもしれないじゃない?
「ななな、何と!? エレナ、それはまことか!? 辺境伯家の跡取り相手に既成事実を作っただとぅ!?」
声が大きいって。
流石に恥ずかしいわ。既に生娘だなんて言えなくなってしまったし。
「そそ、そうよ! 私は王都に来て変わったの。今や魔性の女よ。毎日ヤりまくりなんだから……」
女神様ごめんなさい。私は大嘘をついております。
しかし、残念なる我が父を説き伏せるため。どうかお許しください。
「むむぅ、あれだけ芋っぽかったエレナが……。やはり王都に出したのは正解だったのか」
芋っぽいは余計よ。
父親にする話でもなかったけれど、そこは行き遅れの私だもの。お父様は嘘でも喜んでくれています。
「良くやったぞ、エレナ。リズ様には申し訳ないが、最悪の場合は辺境伯様の庇護下に入れば良い。無難なのはいち早く懐妊することだ。リオ様に強要されたことにすれば、グレイス侯爵様も文句を並べんはず」
ああ、ごめんなさいね。
ガラム様、私は余計な軋轢をぶん投げてしまったみたい。
「とりあえず、一度紹介するのだ。ワシも会って話を合わせておきたい。流石にリズ様が慕われている殿方を横取りするのだからな」
いや、横恋慕はリズ様の方だけどね。
まあしかし、リオは自分の望み通りになるのだから、きっと承諾してくれるわ。
「リオは今巡礼の旅に出ているの。もう直ぐ戻るから、しばらく王都にいてくれる?」
「めでたいことだ。マリアンも呼んでおこう。婚儀の用意もしなければ!」
お父様は脳内一面にお花を咲かせて工房を出て行きます。
滅茶苦茶に疲れたわ。それでこれって正解よね?
間違っていないよね?
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