第162話 修行の成果
リオが旅に出てから一ヶ月が経過していました。
聞いた話ではそろそろ戻ってくるはず。それはとても嬉しいことですけど、私の修行は全く進んでいない。リオが打っているミスリルの大剣に遠く及ばないものしか完成していません。
午前中は自分の工房で習ったことの復習をする時間。随分と火の扱いにも慣れて、誰が振っても壊れないものくらいはできるようになっていました。
「精進していかなきゃ……」
黙々と作業していると、不意に工房の扉が開かれました。
自身の不甲斐なさに気付いてからは、営業中の看板を下げていたにもかかわらず。
「あ、今は休業中なんですが……」
お客様なんて珍しいと思いつつ店舗の方に向かうと、思いがけない人物がそこにいました。
「お父様!?」
何とお父様が来店しています。
半年は口出ししないという約束なのに、一体どういうつもりなのでしょう。
「王都に来る用事があったのでな。様子を見に来た……」
マズいわ……。
最近は売り上げどころか、開店すらしていないってのに。
「そそ、そうなのね。今は忙しいの。またにしてくれるかしら?」
「開店していないじゃないか? 王都で遊びほうけているんじゃないだろうな?」
「ちゃんとやってるわ! 納得いく鍛冶ができるまで店は閉めるつもり。職人に弟子入りをして、修行してんのよ。今だって鉄を打っていたところなんだから」
「ほう、ならば成果を見せてみろ。最近は物騒だと聞く。いつまでもお遊びに付き合うことなどできんぞ?」
なら、見せてあげるわ。
最近打った中で一番の剣を。師匠にも腕を上げたと褒められたんだから。
「こっちよ……」
カウンターを開き、お父様を案内する。
貴族を案内する場所ではないけれど、私の仕事場なんだから仕方ないわ。
「これよ。私が打ったの」
実家でも作った剣を見せていたけれど、それはハッキリ言ってゴミ。鉱石が涙する代物だった。だけど、これは正真正銘の長剣。有象無象の品だけど、私が作った一番の製品なの。
「これを……エレナが打ったのか?」
鞘から抜いてお父様は何度も振ってみる。
マジマジと見つめては一つ頷きを返しています。
「ふん、割とまともになったようだな? しかし、英雄とやらは現れていないだろう?」
きたわね。
その話題こそが本命でしょう。私を実家に戻そうとするための口上に違いない。
「サンドライト伯爵家のモニカは侯爵家の跡取りと婚約したらしいぞ? お前はいつまで鉄を叩いているつもりなんだ?」
ええ?
その話、聞いてない。初耳だって。
モニカって子爵家のご長男と婚約してたでしょ?
「モニカは既に婚約者がいたはずです! 何かの間違いだわ!」
「聞いていないのか? 何でも子を孕んだらしい。責任を取って結婚する運びになったようだ。子爵家には多額の詫びまで贈ったとのこと」
えええっ!
知らない間にそんなことになってんの?
モニカって本当に侯爵家の人に乗り換えちゃったのね。目ざとい子だと思ってたけど、感心しちゃうわ。
「モニカはモニカよ。私には関係ない」
「せっかく王都で暮らしているのだ。上位貴族の殿方とダンスでもしてみろ? お前ならきっと気に入ってもらえる。ワシは妾でも構わんのだ。いい加減に相手くらい決めろ」
ああもう、鬱陶しいな。これだから家にいたくなかったのよ。
どうせ私は嫁ぎ遅れているわ。ほっといてくれないかしら?
とまあ、私は長い溜め息を吐いていたのですが、意図せず漏らしてしまいます。
「相手くらいいるわ……」
とても小さな声だったのですけど、生憎とお父様には聞こえていた模様です。
「ほう、どこの誰だ? まさか平民とは言わんだろうな?」
流石にムッとくる。驚いて顎が外れても知らないわよ?
私だって将来を誓った人がいるっての。
流石に悔しかったから、私は保留にしていた彼の名を告げてしまう。
まだ私たちは目標を達成していなかったというのに。
「ウェイル辺境伯家のリオ様よ……」
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